![]() 01. 発端「いったい、服部家の儀式って何だと思います?」と由加さんが勝君(まさる、32歳)に尋ねた。勝君の勤務先の隣のビルにある喫茶店の中である。 由加さん(31歳)は勝君の妻・真希さんの兄の奥さん、つまり義理の姉さんということになる。その兄も真希さんも月に一度、実家である服部家に戻って一泊して来る。それは元・警視総監の服部家恒例の“儀式”に参加するためであった。参加者は純然と服部の血族に限られていて、勝君や由加さんなど血族以外の者は招待されなかった。 「戻って来ると、『疲れた』っていびきをかいて寝るだけ。そんな肉体労働をする儀式ってあるもんでしょうか?」と由加さん。由加さんは服部家の嫁になるだけあって、理知的なタイプだったが、顔も体つきもぽちゃぽちゃとして魅力的だった。義理の姉さんでなければ口説きたくなるような女性である。 勝君は大富豪の大伴龍之介(54歳)の息子である。現在は中規模の商社に勤務しているが、それは「可愛い子には旅をさせろ」の一過程であって、将来大伴コンツェルンの跡目相続をするための修行であることは誰の目にも明らかだった。勝君は仕事でイタリア滞在中に、オペラ留学中だった真希さんと知り合った。真希さんはよく通るソプラノでよがり声を出すという世にも珍しい女性で、オペラ歌手という華やいだ存在の真希さんに憧れた勝君は結婚を決意した。いざ結婚となって勝君が驚いたことに、真希さんの父は元・警視総監・服部真蔵氏(はっとり・しんぞう、58歳)であった。服部氏には長男・真一君(34歳)、長女・真希さん(29歳)、次女・真弓さん(29歳)、次男・真次君(24歳)、三女・真理ちゃん(20歳)がいた。それに服部夫人・園子さん(55歳)が加わって、一族七人が毎月一度“儀式”を催している。勝君も、儀式から帰って来た妻が数日はセックスを拒否することに気づいていたが、今はそれも慣れっこになっていた。 「勝さん。なんか変だと思いません?どういう儀式なのか、それが宗教に基づくものなのか、何を祈願する儀式なのか、さっぱり分らないんですもの」由加さんが云う。 喫茶店の表で勝君は由加さんと別れた。魅力的な体型の由加さんの後ろ姿を見送りながら、勝君は口中に唾が湧くのを感じた。(いけね。義姉さんなんだからな、邪念を起しちゃいかん) その夜、勝君は行きつけのナイト・クラブに同僚の茂君(32歳)を伴って行った。茂君は南米の鉱物資源の取引の成功を足がかりに、今では商社内で重用されている存在だった。勝君にとって、茂君は単なる同僚ではなかった。勝君の妹・彩さん(あやさん、30歳)は茂君と結婚していて、恵美里ちゃん(7歳)と錠くん(5歳)という二人の子供をもうけていた。勝君と茂君は同い年だったが、茂君にとっては妻の兄は義理の兄である。そこで、彼は勝君を「義兄(にい)さん」と呼ぶのだが、勝君はそれを嫌っていた。お互い気が合う友人であり同僚だったから、そこに上下関係を持ち込みたくなかったのだ。 「なんだい、義兄さん、今日の話って」と茂君。 |
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