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01. 兄妹

アパートの二階の一室の窓の外に、くるくる廻るプラスチックの円い物干しハンガーがぶら下がっている。ピンクのパンティが一枚干してあり、風にそよいでひらひらと揺れている。ピンクと云っても、そこら辺によくある安っぽいピンクではない。上品な淡いピンクである。よく見ないと白に見える。さらによく見れば中身が透けて見えそうなパンティでもある。

21歳の宏君はその風にひるがえるピンクのパンティを見ながら、妹に欲情していた。パンティは妹のものなのだ。

宏君は東京から三時間ほどの小都市の出身だ。父は町医者である。医者になる気のなかった宏君は、情報工学を専攻するため東京に出て来た。学資だけではソフトウェアや参考書が買えないので、隔日でキャバレーのボーイをして稼いでいた。割にハンサムな宏君はホステスたちに人気があり、たまに彼女たちとの無償のセックスにもありつけた。一挙両得だった。

宏君には妹が一人いた。由美子ちゃんと云い、二つ違いである。少年時代、宏君は由美ちゃんを弟のように扱って面倒を見た。由美ちゃんも兄に従って男の子の遊びに加わり、喧嘩したり、怪我をしたり、泣かされたりした。由美ちゃんが悪童たちにいじめられると宏君が助けに素っ飛んで来たり、仕返しをしてくれた。だから、二人の間柄は兄妹というより、兄弟に近かった。

その由美ちゃんも19歳となり、今年東京の語学で有名な大学の生徒となった。両親は宏君が由美ちゃんを可愛がっていることを承知していたから、二人を一緒に住まわせるのが娘にとって一番安心だと判断した。父の指図で宏君は二人が入れるアパートを探し、それまでの下宿を出た。

そのアパートは都心からそう遠くない私鉄沿線にあり、どちらの大学にもほぼ等距離だった。気の置けない下町なので、地方出身の兄妹(きょうだい)にも馴染み易い土地柄だった。部屋は六畳と八畳と台所とお手洗い。お風呂は近くの銭湯に行く。奥の六畳を由美ちゃんが使い、入り口に近い八畳は宏君の部屋兼茶の間である。地方の町医者は大して儲からないので、これが予算の限界だった。

由美ちゃんは小柄でショートヘア。丸顔に近い瓜実顔で、おでこ。目は丸く大きい。唇は厚いが小さく、どちらかと云えばあどけない感じを醸し出している。口紅はつけていない。お肌の手入れをするだけで、お化粧は一切しない。健康優良児がそのまま成長したような身体つきで、胸も出ているように見えないし、腰も大きくない。お尻だけがぷくんと丸みを見せている。セーラー服を着せれば女子高生、学生服を着せれば一寸なよなよした男子高校生に見えそう。由美ちゃんはそんな女の子だった。

由美ちゃんはピンク色が好きだった。服やバッグ、靴などもピンク色が多い。パンティのほとんどはピンクだった。断わっておくが、カーテンはピンクではない。兄に遠慮して淡いブルーのカーテンになっている。

兄妹の共同生活はとりあえず順調だった。宏君にとって元々弟のような由美ちゃんだったが、宏君は兄貴風を吹かして威張ることはせず、面倒見のいい兄貴という役に徹底していた。それだけに由美ちゃんも兄を信頼し、頼っていた。彼女は室内の雑用を文句も云わず出来るだけこなした。兄も怠けてはいなかった。由美ちゃんが食事を作れば宏君が洗い物をしたし、たまに宏君が簡単な料理を作ることもあった。洗濯物は近くのコインランドリーへ交代で通う。お互いに、公平で対等な共同生活だった。宏君が由美ちゃんに東京の生活の仕方を教えているうちに、瞬く間に数ヶ月が過ぎた。

その数ヶ月、宏君が妹を女として考えたことはなかった。いや、全くなかったというと嘘になる。由美ちゃんの湯上がりの浴衣姿とか、ショートパンツからすらりと出た脚や、ノースリーブの服を着た時に見えるたおやかな肩などに眩しい思いはしたことがある。しかし、宏君にとっては妹はこの19年面倒を見て来た弟分であり、二人の間の性別は無いも同然だった。多分それがどこの兄妹や姉弟にも共通する、ごく自然な関係だろう。この時点で、宏君はごく普通の兄貴であった。

ごく普通の兄貴・宏君は問題を一つ抱えていた。下宿で一人暮らしの時は、好きな時に好きなようにオナニー出来た。妹が隣室にいたり、出たり入ったりされるとそうはいかない。しかし、21歳の男子としてはほぼ毎日のようにやらないと済まない日課である。精液が溜まって股の間に疼くものがあると、勉強にも身が入らない。定期的に放出する必要があった。

由美ちゃんが早寝してくれると最高だった。安心してコンピュータにXXX写真を表示したり、TVでポルノ・ビデオを見ながらオナニー出来る。由美ちゃんがうんうん云いながら英作文の宿題をやっていたりすると困ってしまう。ずっと六畳にいてくれればいいが、いつ水を飲みに出て来たりするか分らない。エロ本をトイレに持ち込んでオナニーしてみたこともあるが、これは味気ない。ポルノ・ビデオを見ながら自由にやりたい!宏君は欲求不満になった。

宏君は(なんでおれは、こそこそオナニーしなきゃなんないの?)と考える。これは男の生理だ。恥ずべきものでも何でもない筈だ。恋人の前でオナニーするのは妙だろうが、実の妹の前ではいいのではないか?妹も兄の生理として認めるべきだ。宏君はそう思った。そうは思ったが、いきなり妹の前でオナニー出来るものでもなく、やはりこそこそとオナニーする日々が続いた。

由美ちゃんがコンパで呑まされて帰って来た。バタンキューと寝てしまった。宏君にとっては最高の夜だ。わくわくした。宏君はTVにヘッドフォンを装着して音が漏れないようにする。最近レンタルしたばかりのポルノ・ビデオを取り出しデッキに挿入する。新聞紙をTVの前に二枚広げる。ここに精液を飛ばすのである。ティシューで受けると遠くへ飛ばす快感が得られない。宏君が考え出した新聞方式は本当のおまんこに近い解放感があるのだ。準備を整え、下半身裸になる。新聞紙の後ろに椅子を移動して腰掛ける。ビデオ再生を始めながら、ローションをペニスに塗る。それだけで気持ちがいい。(しかし、今夜は焦らずにやるんだ。ゆっくり楽しむぞ)宏君は生唾を呑み込みながら画面を見つめ、ペニスをしごき始めた。

「きゃああ!」由美ちゃんの叫び声。振り返ると由美ちゃんが部屋から出て来ようとするところだった。コンパでビールを呑まされたせいで、突如トイレに行きたくなったのだ。宏君はヘッドフォンをしていたので、由美ちゃんが起き上がる気配や襖が開く音に全く気づかなかった。由美ちゃんの目にはまともにポルノ・ビデオの男女の絡み合いが飛び込んで来て、その前で下半身を剥き出しにした兄が勃起したペニスを擦って恍惚となっているのが見えた。見てはいけないものを見てしまった!由美ちゃんは慌てて口を押さえたが、もう遅い。由美ちゃんはすっと襖を閉め、どきどきする胸を撫でながら(どうしよう!どうしよう!)と思っていた。

「由美!どうした?トイレか?」と宏君。
「う、うん…」と由美ちゃん。
「行きゃいいじゃないか。気にするな」
「だって!」
「膀胱炎になるぞ」と宏君。
「兄(にい)ちゃん、ひどい!そんなもの、あたしに見せないでよ!」由美ちゃんが抗議する。
「おれは恥ずかしくないぞ。誰だってやってるんだ。当たり前のことなんだ」
「でも、妹の前で、ひどいわ!」由美ちゃんが泣き出す。

仕方なく宏君はTVを消し、パジャマを着て下半身を覆った。
「おい、もう大丈夫だ。早く行け」と宏君。
由美ちゃんはそーっと数センチだけ襖を開け、こちらを覗く。もうポルノはなく、兄も正常な姿だ。由美ちゃんは襖を全開し、ダーッとお手洗いに駆けて行く。戻って来た由美ちゃんは兄の顔を見もせず、言葉もかけずに自室に戻り、ぴしゃりと襖を閉めた。すぐ布団に入るが、とても寝られたものではない。ショックだった。腹が立った。ダーティな映像。尊敬している兄の情けない姿。このアパート内で見たくないものを二つも同時に見せられてしまった。不愉快だった。

「もう出て来ないだろうな。おれ、続きをやるからな」と宏君が声をかける。
「兄ちゃん!お願いだからここでそんなことしないで!他所でやってよ!」と由美ちゃん。
「どこで?」
「知らないわよ!とにかく、あたしの前では止めてよ!」
「じゃ、表の道路でやって来る」宏君がふざける。
「冗談じゃないわ!猥褻物陳列罪で逮捕じゃない!恥をさらさないで!」由美ちゃんは本気にする。
「じゃ、どうすりゃいいの」
「我慢しなさい」
「不可能だよ、そんなの」
「もう遅い。あたし寝る」
「ちぇっ」宏君は諦め、布団を敷き始めた。

由美ちゃんは寝つけなかった。目にしたもののうち、ポルノはまあどうでもよかった。兄のペニスが脳裏に焼き付いていた。(男の人って、あんな大きなものを股の間に隠してるんだ。結婚したら、ああいうのがあたしの身体に入って来るの?恐いっ!)




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