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05. まんこそば

「わんこそば」は岩手名物である。それを東京で食わそうとして開店した「てんや椀屋」であったが、店の名前とは裏腹に、店は毎日閑古鳥が鳴いていた。これでは店は潰れ、借金が残るだけとなってしまう。経営者兼そば職人のお父さん(42歳)、お母さん(40歳)、娘の望美(のぞみ)さん(20歳)、伸一君(18歳)が会議を開いた。
「みんな、よく聞いてくれ」とお父さん。「このてんや椀屋の最大の危機だ。この危機を乗り越えるいいアイデアがあったら、何でもいいから出してくれ」
急に云われても起死回生の妙案がすぐ出るわけがない。一同は思案投げ首で沈黙した。お母さんはこの店のウェイトレス(給仕人)として働いている。小柄で男好きのするベビーフェースのせいで、30代にも見える溌剌とした女性である。望美さんも給仕人として働いているが、彼女はお母さんを凌ぐ美人で、この店の看板娘であった。看板娘がいながら、この店が繁盛しないのには何か重大な営業方針の欠陥があると思われた。伸一君は大学浪人である。彼もお母さんの血を受け継いで長身のハンサムだった。予備校に行かない時は店を手伝っている。
「やっぱり、東京でわんこそばってのが間違いなんじゃないの?」と伸一君。「東北という土地柄と結びつかないと流行らないんだよ」
「馬鹿!そんなことは百も承知で始めたんだ」とお父さん。「分析が聞きたいんじゃない。客を呼ぶアイデアが欲しいんだ」
「でもお父さん」と望美さん。「分析して、それにどう対処すべきか考えるのもいいんじゃない?」
「盛岡と花巻では全国大会があるわよね?」とお母さん。「東京大会を開催したらどうかしら?」
「無理だ。東京にはわんこそばの店は少ないし、大会を主催するような資金はない」とお父さん。
また、一同は頭を垂れて考え込んだ。

「お父さん」お母さんが真剣な眼差しでお父さんに向き直った。「うちの経営、どのぐらい行き詰まってるんですか」
「ひどいもんだ。来月には不渡りを出すかも知れん」とお父さん。
「そこまでひどいんですか!」お母さんが身震いする。
「知らなかったわ!差し押さえにでもなったらどうするの、あたしたち」望美さんが目に涙を浮かべる。
「おれ、大学行かなくていいからね。土方でも何でもやるから!」と伸一君。
「そんな、お前!」とお母さん。
「済まん!」とお父さん。「こんなつもりじゃなかったんだが…」お父さんも悔し涙にくれる。

「あなた」とお母さん。「どんなアイデアでもいいですか?」
「ああ、何でも聞かせてくれ」とお父さん。
「たとえ破廉恥な案でも?」
「この際だ。構わん」
「怒りませんか?」
「怒らないよ」
「私を殴ったりしませんね?」
「何でお前を殴らなきゃならん?」
「わんこそば600杯食べた客に、私がおまんこさせます」
「な、何だと!」お父さんが立ち上がる。
「お母さん、そんなっ!」と望美さん。
「お前っ!妻として母親としてそんなことが許されると思ってるのかっ?」
「だから破廉恥だって云ったじゃありませんか」とお母さん。
「僕、それいいと思う」と伸一君。「お母さん美人だしさ。恋人いなくておまんこしたい奴等一杯来ると思う」
「亭主の目の前で女房が客におまんこされるなんて、よくもそんなことが考えられるもんだ」お父さんが握った拳を震わせる。

「お父さん、落ち着いて!」と望美さん。「お母さんは600杯って云ったのよ?全国大会の記録覚えてるでしょ?」
「ああ、560杯だ」とお父さん。
「誰もお母さんとおまんこ出来ないのよ!」と望美さん。
「?」お父さんが考える。「なるほど」
「でも、不可能だったらやっぱり客は来ないね」と伸一君。
「565杯にすればどう?」とお母さん。
「きわどいとこね」と望美さん。
「お前ら、どうあってもその案を実行する気のようだな」お父さん。
「それよりいい案がある?」と望美さん。
お父さんが黙る。
「『まんこそば』ってキャッチフレーズで宣伝すればいい」伸一君が鼻を蠢かす。
「売春にならないかね?」とお父さん。
「そばの代金は食事代。おまんこは無料の顧客サービスだからいいんじゃないの?」と望美さん。
「法律を調べた方がいいね」と伸一君。

伸一君がインターネットで調べると、「不当景品類についての規制」というのが目についた。「景品類の最高額」が定められており、「アフターサービスと認められる経済上の利益は景品類に含まれない」ともある。そば屋の主婦によるおまんこに金額を当てはめることは出来ないし、価格のないおまんこは景品には該当しないと考えられる。

伸一君は、家族に調べたことを報告した。
「法律相談で大丈夫かどうか聞きましょうか?」とお母さん。自分で出したアイデアだったが、罰金や刑務所行きが恐くなったのである。
「いや、とにかくやってみよう!」とお父さん。お父さんは家族に、とにかく現金収入を得て来月の不渡りを防止しなくてはならないこと、もし法律的に問題があっても先ず警告があって、いきなり逮捕ということにはならないであろうこと、もし違法ということでまんこそばを中止することになっても、都内どころか全国の話題となり客足を確保出来る可能性があることなどを話し、たとえ一ヶ月だけであろうとやってみたいと云った。
「お前には苦労させるが堪えてくれ」お父さんがお母さんに云う。
「なあに、565杯も食える豪傑などいないでしょう」とお母さん。

一家は価格について相談した。東北のわんこそばの相場は食い放題2,500円〜4,000円であるが、てんや椀屋は地方色がないので、これまで食べ放題2,500円でやって来た。純粋にわんこそばを楽しむ客には、これからもそれが妥当な値段であると思われる。だが、まんこそばの場合にもその額ではお母さんの貞操のリスクに引き合わない。食べ放題ではなく、565杯に満たなければ食べた分だけ払って貰うのが良さそうである。
「お父さん、男の人って遊びにどのくらいお金使うの?」と望美さん。
「うむ。競馬でもパチンコでも日に二万円ってとこだろうな。それ以上は庶民にはちときつい」
「日本の売春の相場っていくらぐらいかしら?」とお母さん。
「あ、それも調べてみた」と伸一君。「違法だから数字はまちまちだけど、平均二万円ってとこみたい」
「結局、二万が上限みたいね」とお母さん。
「だとすると、20,000割る565は35.3だから、565杯に満たない場合は一杯40円として計算すればいいかも」と望美さん。
「300杯で降参した客は12,000円払うということか」とお父さん。
「そうよ!食べ放題のお客五人分に近いわ!」と望美さん。
「わんこそば10杯がかけそば1杯分に相当するって云うよね?」と伸一君。「うちのかけそば1杯は300円だから、30杯分だと9,000円。まんこそば300杯で降参すると、お客は3,000円損するという勘定だね」
「その3,000円がまんこそば挑戦料ってことね」と望美さん。
「悪くない」とお父さん。「よし、お母さんは造花の赤いバラを胸に付けてくれ。他の店員と区別するんだ」

お父さんは今どき珍しいチンドン屋を雇って駅前で「てんや椀屋のまんこそば」を宣伝させた。その文句を聞いた御婦人たちは眉をひそめたが、若い男性たちは一様に興奮した。食欲を満足させると性欲も満足させられるのだ。てんや椀屋にはどっと客が訪れた。565杯に挑戦しようという客は希だったが、多くは565杯食べたらどういう御褒美が得られるのか見に来たのだ。客たちは赤いバラを胸に付けてソバを給仕するお母さんに舌舐めずりした。

てんや椀屋は給仕人を数人増員せねばならないほど繁盛した。何人かの客が記録に挑戦して敗れた。お母さんの貞操は無事で、一家の金庫には現金がどんどん積まれて行った。当局からの警告はなかった。お父さんを初め、一家はお母さんのアイデアが大当たりであったことを実感し、順風満帆の将来に胸を膨らませた。

その一家にショッキングな出来事が降って湧いた。

ある日、まるで葬式の帰りのようにソフト帽から皮靴まで真っ黒の出で立ちの客がやって来た。歳の頃は40代前半。苦みばしった顔のいい男で、どちらかと云えば痩せ形の体型。望美さんが注文を取ろうとすると、客がまじまじと彼女の顔を見た。
「まんこそばの御褒美はあんたかね?」と男。
「いえ。あの赤いバラを胸につけた女性(ひと)です」望美さんが離れたテーブルで給仕しているお母さんを振り返って云う。
「何だ、あんたじゃないのか」客はちょっとがっかりした顔をしたが、鋭い目でお母さんの顔と姿態を品定めした。「ふむ。年増だがいい女だ」と呟いた。
「あの、御注文は?」望美さんが促す。
「今日は下見だ。明日まんこそばに挑戦する。御主人とあの女性に伝えておいてくれ」男はそう云って、名刺をテーブルに置いた。「いいね?」
「は、はい!」望美さんが名刺を取り上げようとすると同時に男は席を立った。望美さんが名刺を見てガビーン!となり、男をよく見ようとしたが、もう黒い姿は暖簾を掻き分けて見えなくなるところだった。

「なに?『全国わんこそばチャンピオン・三船俊郎』だと?」お父さんが名刺を見ながら云った。
「560杯の人よ!」と望美さん。
「んまあ!どうしましょう!」お母さんがおろおろする。
「あの人、お母さんを見て『いい女だ』って」と望美さん。
「本気なんだ」と伸一君。
「まさかチャンピオンが来るなんて想像もしてなかったわ。浅はかだった」とお母さん。
「お父さん、どうする?」と望美さん。「お母さん、姦(や)られちゃうかもよ!」
「この人の記録は時間無制限の頃だよ」と伸一君。「時間を決めたら大丈夫なんじゃない?」
「急にルールを追加するってのは、フェアじゃないわね」と望美さん。
「一杯のそばの量、少し増やしたら?」と伸一君。
「バレなきゃいいけど」と望美さん。
「向こうも仮にもチャンピオンだ」とお父さん。「一杯のそばの喉越しの感覚は身体で覚えているだろう。そんな卑怯なことをしたら、詐欺だ・何だってあちこちで云い触らされ、誰もまんこそばなど注文しなくなる」
「その通りだわ」とお母さん。「この商売を続ける気なら正々堂々と挑戦を受けて立たなきゃ。お父さんも私も一旦覚悟したことなんだから、この三船って人が勝てばやらせるしかないわ」
「お前。本当にいいのか?」とお父さん。「見も知らぬ男におまんこさせて」
「私よりお父さんですよ。よその男に抱かれた私を嫌ったりしません?正直に云って頂戴!夫婦仲が壊れるくらいなら、みんなで夜逃げした方がましだわ!」
「お母さん!」望美さんが泣きながらお母さんに抱きつく。
「一寸待って!」と伸一君。「その人が勝つとは決まってないよ。この人が560杯食べたのは10年前だよ。もう体力落ちてると考えた方がいいんじゃない?」
「そうか!そうかもね!」望美さんが涙を拭きながら云う。
「しかし、ひょっとするとひょっとするってこともあるから、覚悟はしておかないとな」とお父さん。
「お父さん!ひょっとしても私を嫌いにならないでね?」お母さんがお父さんに抱きつく。
「ああ」お父さんがお母さんを抱き締めた。

三船俊郎が宣伝したのか、店の従業員たちが漏らしたのか、その日は大勢の客が押し掛け、店の外に並ぶ人も出る騒ぎだった。三船俊郎は午前11時に現れた。昨日同様黒尽くめの格好である。

三船俊郎がまんこそばに挑戦を始めた。スピーディにそばを飲み込んで行く。噛まない、汁も飲まない。薬味にも手をつけない。お母さんと望美さんは、お父さんが作るそばを間断なく給仕する。100杯、200杯、300杯、400杯。次第にお母さんの顔色が青ざめて行く。望美さんも伸一君も気が気ではない。店内の客はみな食べるのを止め、チャンピオンの挑戦を見守っている。店に入れず外に立っている客もガラス戸越しに注視し、知らぬ同士なのに興奮して何か囁き合っている。

500杯。ついに三船俊郎も薬味を食べ始めた。刺激がないと食べられなくなった証拠である。お母さんも望美さんも伸一君も、一縷の希望にすがる思いで三船俊郎の口元を見守る。550杯。店の中の客も外の野次馬も一椀ごとに拍手を始めた。声援も飛ぶようになった。誰もがまんこそばは夢幻(まぼろし)ではなく、美人のお母さんが現実に三船俊郎におまんこされることを期待しているのだ。彼らにとって三船俊郎は英雄なのである。お母さんの家族は、その客たちの拍手と声援に耳を塞ぎたい思いだった。お母さんは気が遠くなりかけていたが、拳を握りしめて気丈に持ち堪えていた。

560杯。チャンピオンが自分のタイ記録を達成した。店内がどよめき、大きな拍手、「よくやった!」、「頑張れ!」の声援。563杯、564杯。あと一杯で初のまんこそばの偉業達成である。店内の客は総立ちになって三船俊郎のテーブルを取り巻いた。565杯。三船俊郎はついに最後のわんこそばを飲み込んだ。赤いバラをつけたお母さんを抱く権利を勝ち得たのだ。「うわーっ!」、「やったーっ!」客たちは三船俊郎の肩を叩き、握手攻めにし、客同士で抱き合ったり、踊りを踊る者までいた。その蔭でお母さんがふらふらとよろめき、からくも望美さんに抱きとめられた。調理場ではお父さんが頭を抱えていた。

望美さんが三船俊郎を奥の部屋に案内した。お母さんは被り物と前掛けを外し、調理場のお父さんの前に立った。
「あなた。行って参ります」とお母さん。
「御苦労さん」とお父さん。
二人はじっと互いの目を見つめ合った。お母さんが潤んだ目を背け、三船俊郎の待つ奥の部屋へ向かう。

店内の客が騒ぎ始めた。おまんこはさせずに金で解決するんじゃないかと疑う者がいて、本当におまんこさせるのかどうか確認したいと云うのだ。「立ち合わせろ」、「見せろ」という声も出た。

お父さんが調理場から出て来て、客たちを静粛にさせた。
「お客さんの中から互選で三人の方を選んで下さい」とお父さん。
「その三人、どうすんの?」と客の一人。
「北朝鮮の核問題で国際査察団が編成されました。それと同じ役割です」
「その三人はおまんこ見られんの?」と別の客。
「いえ、見せると猥褻物陳列罪になりますから駄目です。襖の蔭から成り行きを聞くだけにして下さい」
「つまんねえな」と別の客。
「しかし、それが限界だろ」と云う声が飛んだ。
「そうだ、そうだ!」と何人かが同意した。
あみだくじで三人の客が選ばれ、奥の部屋の襖の前に通された。三人は交代で伝令となり、漏れ聞いた進行状況を店で待つお客一同に伝えた。
「やってます!ほんとにやってます!」と最初の伝令。
「よがってます、『あはーん!』って云ってます」と次の伝令。
「『そんな!あわわーん!』って云ってます」
「『あうあうあうーっ!』って云ってます。もうすぐイきそうです」
「イきました!『死ぬ〜っ!』って云いました!」
客一同が「うわーっ!」と叫んだ。「ばんざーい!」と叫ぶ者もいた。

「てんや椀屋のまんこそば」は大評判になった。話題の店で食いたいという者、おまんこさせたお母さんの顔を見たいという者、次ぎなる挑戦に挑もうとする者などでごった返した。

しかし、数ヶ月経つと客足が落ちた。不渡り手形を出す心配をしていた頃に較べればまだまだ大繁盛であったが、三船俊郎の挑戦後の気違いじみた入りからすると客の数が減っているのは確かだった。

「あたしも赤いバラをつける」と望美ちゃんが云った。
「何だと?」お父さんがたまげる。
「お前!」お母さんが口をあんぐりする。
「嫁入り前の娘にそんなことはさせられん!」とお父さん。
「あたし処女じゃないし、ちゃんと考え抜いたの。あたしのまんこは570杯。どう?」
「むむ…」お父さんが詰まった。「しかし、リスクはある」
「可能性がなきゃ誰も挑戦しないじゃん」と伸一君。
「それなら、私500杯にディスカウントする」とお母さん。
「なに?どういうことだ?」とお父さん。
「望美が景品になるんなら…」
「こら!景品という言葉を使っちゃいかん。アフターサービスだ」とお父さん。
「お客は当然若い望美を欲しがるわ」とお母さん。「でも、普通のお客には570杯は無理。500杯という選択肢もあっていいんじゃない?挑戦者も出ると思う」
「お前、もっと客にやられたいのか?」とお父さん。
「変なこと云わないで下さい!私はお店のことを考えて云ってるんじゃありませんか。嫌味を云うんなら、私の案はなかったことにして頂戴」
しかし、店が復興したのはお母さんのアイデアの賜物だった。今度もお母さんの意見は正しいと思われ、結局その案が採用された。

「えーっ?望美ちゃんも赤いバラ付けたの?」常連の客が驚いた。
「ほんとかよ!だったら、おれ挑戦しようかな?」もう一人の客が云った。
美人の看板娘とやれるかも知れないという噂はたちまち広がり、望美ちゃんの顔や身体を見に来る客で、店はまた凄い繁盛振りとなった。冗談半分でまんこそばに挑戦する男は何人もあったが、その誰もが100杯も行かずに敗退した。

「570杯食べたらキミとやれるの?」ある日、50代の男性客が聞いた。
「はい!」望美さんが明るく答えた。どうせ570杯食べられる人間などいないのだから安心だ。
「じゃ、明日出直して来る。キミ、休んだりしないよね?」と男が云った。
「ええ。木曜定休日以外休みません」答えつつ望美さんは客を観察した。自信たっぷりの割りには小柄で貧相で、どう見ても570杯食べられるような体格には見えない。
「じゃ、また明日」客が勘定をして出て行った。
望美さんはこの一件をすぐ忘れてしまった。脅威には感じなかったからだ。当然、家族にも話さなかった。

翌日の昼、その小男が現れた。この男のことなど眼中になかった望美さんは、男が本当にやって来たので一寸面食らった。
「まんこそばですか?」望美さんが注文を聞く。
「いや。僕は普通のかけそば一人前」と男。
望美さんは客の「僕は」という云い方が気になった。
「お待ち合わせですか?」と望美さん。
「うん。友達が一人」と男。

「ヘイ、タナカサーン!」雲つくようなデブの大男が店に入って来て、例の小男に手を出した。
「ヘイ、ジョー!ハウアーユー?」小男が握手する。
「グッド!」ポパイのライバルのブルートーのような顔のジョーが答える。アメリカ人である。
「いらっしゃいませ」望美さんがお茶を運んで来る。
「この人にまんこそば」と小男。
「えーっ?」望美さんはショックを受けた。ジョーは体格も日本人の1.5倍はあり、その腹は映画『スターウォーズ』に出て来る巨大な怪物ジャバ・ザ・ハットもどきである。ジョーはもう望美さんが自分のものになったように舌なめずりしている。望美さんの全身の血が引いた。

今回は誰も宣伝しなかったので、店は超満員にはなっていなかった。しかし、店にいた客が携帯電話で友人・知人に怪物のような外人がまんこそばに挑戦することを告げ、店内は次第にすし詰の状況となった。

ジョー・ザ・ハットはぺろりと570杯のわんこそばをたいらげ、もっと食いたそうな顔をしていた。客は誰も拍手しなかった。あまりにも簡単に記録が作られたことと、怪物のような外人に親近感が持てなかったせいである。望美さんは屠殺場に向かう牛のように奥の部屋へ向かい、ジョーも後に従った。今回は査察団編成のあみだくじは必要なかった。なぜなら、伸一君がマイクを奥の部屋に設置してあり、店内の拡声器を通して音声の一部始終が流れるようにしてあったからである。
「ヘイ、ベイベー」とジョーの声、「ユーアー・キュート。ユーハヴ・ナイス・バディ。ウムム」
「ノー、プリーズ・ドーント」望美さんが何か拒んでいる。
「ユーアー・マイン」ジョーが云い、ブチューっという音がした。キスしたのだ。
「あはーん!」という望美さんの声。
「ユーアー・ウェット」ジョーが望美さんのおまんこに触っている。「レッツ・ファック!」
「ひーっ!」望美さんの悲鳴。「壊れちゃう!」
お父さんとお母さん、伸一君が唇を噛み締める。大男のデカ摩羅が望美さんの体内にぶち込まれたのだ。
「あひーっ、むぐーん、あへーっ!」望美さんがよがる。
「カモン、ベイベー、カモーン」とジョー。
「むむーんっ!ああーん、わわーんっ!」望美さんがイった。
「ガーッド」ジョーもイった。

それからは外人の客も増え、てんや椀屋の収入は増える一方だった。
「お父さん、この店の欠点何だと思う?」と望美さん。
「欠点なんかあるかい?」ほくほく顔のお父さんが首を傾げる。
「お客はみんな男ばっかりじゃない。人類の半分が来てないのよ」
「女性客か!」
「そうよ。でね、伸一にも赤いバラ付けさせたら女性客が来ると思うのよ」
「僕、100杯でオーケーするよ」と伸一君。
「馬鹿。それじゃ収益に繋がらないじゃない!」望美さんが一蹴する。
「そっか。えーとね、記録だと女性は400杯ってとこだね」
「じゃ、400杯。どう、お父さん?」
「いいだろ」

伸一君も胸に造花の赤いバラを付けた。その下に「400杯:童貞」という布切れが付いている。
「君、ほんとに童貞なの?」と、ある女性客が聞いた。40前の色っぽい中年婦人である。
「ええ。早く喪失したいんですけど」と伸一君。
「あたしが手伝おうか?」婦人が流し目で云った。
「えっ?ほんとですか?」今の伸一君は女なら誰でもいいのだ。
「じゃ、ちんこそばお願い」と婦人。
「ちんこそば?」
「だって、御褒美は君のお珍々でしょ?まんこじゃないじゃない」
「なるほど」

この婦人は難なく400杯を平らげた。
「あたし、童貞狩りしてるこういう者」婦人が名刺を出した。「全国わんこそば大会女性部門第一位・京 町子」とあった。
京 町子と伸一君は奥の部屋へ行ったが、店内の拡声器の準備が整う前に、伸一君は三擦り半で射精してしまった。京 町子は童貞を仕留めたことで一応満足したが、「店主を呼んで」と云い、お父さんにイくまでやってくれと主張した。お父さんと京 町子のおまんこの模様は拡声器では流されなかった。

伸一君が家族を集めた。
「僕は童貞という肩書きを失ったから、これからは女性をイかさなくちゃならない」と伸一君。
「そうね」と望美さん。「いつもいつもお父さんに調理場から出て来て助けて貰うわけにもいかないわ」
「だから、性技に上達しなきゃいけないと思うんだ」
「どうやって?」とお父さん。
「お母さんか姉さんに教えて貰って…」
「何を馬鹿なこと!」お父さんがいきり立つ。
「いえ。私が教えましょう」とお母さん。
「お前!」お父さんが呆れる。
「あなた、最近私を抱いてくれないじゃありませんか。やはり、私が客とおまんこしたことが気に食わないのよ」
「そ、そんな!」お父さんがへどもどする。
「だから、私は伸一を指導します。あなたは望美を指導したら?」とお母さん。
「えっ?」とお父さん。
「えーっ?」と望美さん。
「伸一、おいで」お母さんが先に立って寝室へ向かう。伸一君が跳ぶように後を追う。
「望美!」とお父さん。
「お父さん!いいわ、やりましょ」と望美さん。
お父さんが娘を押し倒した。

お母さんの特訓で伸一君の性技は日に日に上達し、いつでも客を悦ばせることが出来る域に達した。
「あ、坊や。あなた400杯の御褒美?」と客が聞いた。
「ハイ!」テーブルを拭きつつ、客の顔も見ずに伸一君が答えた。
「じゃ、まんこそば、400杯」
客の顔を見た伸一君がギョッとなった。その客は男だったのだ。




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