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31. 議員秘書の㊙任務

衆院議員の森 義一(もり・よしかず、58歳)氏は明解な政治的立場と爽やかな弁舌、それに誠実な人柄が相まって保守派若手政治家のリーダーであり、未来の首相候補と目される大物であった。国会議員は公費によって計三名の議員秘書を抱えることが出来る。議員の私費によって雇われる者を私設秘書と呼び、いずれは自分も政界入りしたいという野望を持つ若者が、雇い主の議員に献身的に尽す場合が多い。しかし、森 義一議員の私設秘書は異なっていた。

森 義一氏には四人の娘がいた。春子(32歳)、夏子(28歳)、秋子(22歳)、冬子(18歳)である。森 義一議員の私設秘書は、先ず春子さんが22歳から26歳までの五年間勤め、春子さんが結婚した後は夏子さんが23歳で引き継ぎ現在で六年目となっていた。私設秘書は地元企業人の面会(これが実に多い)、マスコミのインタビューなどのスケジュール調整、視察旅行や選挙地盤を訪れる際の飛行機や列車、ホテルの予約、そして議員の健康状態によっては医院・病院の予約などまで、多岐にわたる雑用をこなすのが任務である。森 義一氏はどこにでも必ず私設秘書の娘を同伴するのが常で、周囲からはその睦まじさが羨望の眼差しで見られていた。

夏子さんはやや婚期が遅れていたが、二年越しのロマンスが実り、間もなく結婚の運びとなっていた。後を秋子さんに引き継ぐため、夏子さんは機会を見つけては秋子さんにレクチャーを施した。それは姉の春子さんが夏子さんに教えた事柄でもあった。

夏子さんは宝塚歌劇のスターにもなれそうな八頭身をデザイナー・スーツで包み、目鼻立ちのハッキリした派手な容貌の女性。秋子さんはどちらかと云えば小柄で可愛いタイプの女性である。
「家で一緒にいる時以外はお父様を“先生”って呼ぶのよ?乗り物の中でもホテルでも」と夏子さん。
「何かわざとらしいわね」と秋子さん。
「私設秘書はお父様のポケットマネーで雇われてるでしょ?月給を頂いている点では公費で雇われている他の秘書さんたちと変わらないわけだから、同じように“先生”と呼ぶの」
「食事してる時も?ホテルでも?」秋子さんは合点がいかない。
「云ったでしょ?自宅以外では24時間。それがプロってもんよ」
「24時間?『先生、鼻毛が出てます』とか?」
「あはは。もちろん、家庭内のプライヴェートな話の時は別。『先生の奥様から電話です』って云ったら、それこそわざとらしいものね」

正式な引き継ぎが迫った頃、代議士である父の地方遊説の旅が予定されていて、夏子さんが正規の秘書、秋子さんは見習い秘書として同行することになった。社会人になったばかりの秋子さんには、各地の風物・名所を見たり、名物を食べたり出来るのが嬉しくて仕方がなかった。
「夏子姉さん!私、このお仕事好きになりそう!」と秋子さん。
「そう?良かったわね!」夏子さんが妹を“後輩”として頼もしそうに見る。
党の県本部が主催してくれた歓迎の宴を最後に、その日の予定は全て終了した。三人はその都市の一流ホテルにチェックインした。夏子さんはスイート(続き部屋)を予約してあった。
「出張の場合は必ずこうするのよ?いい?」と夏子さん。
「家族だし、話がしやすいからでしょ?」と秋子さん。
「そういうこと」
代議士が占めるメインの部屋はキングサイズのベッド、姉妹の部屋の方はダブルサイズのツインベッドが備えられていた。
姉妹はスーツケースから洋服を取り出して衣装棚に掛け、下着等を戸棚に納め、化粧品や細々したものをそれぞれ好きな場所に広げた。ふと、秋子さんが妙なものに気づいた。夏子さんが取り出して鏡の前に置いたものだ。
「えーっ?コンドーム?」秋子さんが大声を出す。「夏子姉さん!お義兄(にい)さんがここに来るの?」
「ううん」と夏子さん。
「じゃ、なんでこんなもの持って来るわけ〜?」秋子さんには理解出来ない。

姉妹はシャワーを浴び、夏子さんはネグリジェに、秋子さんはパジャマに着替えた。
「じゃ、お父様に御挨拶に行きましょ」と夏子さん。
「“先生”でしょ?」秋子さんがくすっと笑う。
「その通り」と夏子さんも笑う。
夏子さんがスイートの境の戸をノックする。
「おう!」と森 義一氏の返事。
「先生!」と夏子さん。秋子さんと二人で並んで一礼する。「一日、おつかれさまでした」
「おお、お前たちも疲れたろう。御苦労さん」と代議士。
「もう、御用はございませんか?」と夏子さん。
「頼む」と代議士。
「かしこまりました」と夏子さん。夏子さんは境の戸をロックし、秋子さんに「あなた、出てっちゃ駄目よ。その椅子に掛けてなさい」と囁いた。
秋子さんには何がなにやら分らなかった。(何なんだ、一体?)と思った。(もうベッドに入って寝たかったのに、こんな時間に何をするわけ?『頼む』って何よ?)と考えながら椅子に掛けた。

その秋子さんの目の前に想像を絶する光景が展開した。

夏子さんは父のベッドに上がると、サイドボードの制御盤をいじくってベッドサイドのライト以外の全ての照明を消した。秋子さんは舞台を見つめる暗闇の中の観客となった。夏子さんはベッドサイド・ライトを調節して、かなり暗くする。そのライトを背にした夏子さんがネグリジェを脱いだ。パンティ無しの全裸だった。父・義一氏はベッドの横で部屋着を脱ぎ、全裸となってベッドに上がった。父はがっしりとした逞しい肉体の持ち主だった。

秋子さんは両手で口を押さえて、何か叫びたい衝動を抑えていた。身体が戦慄で鳥肌を立てていた。

ベッドの上の父と娘が膝立ちで抱き合った。父の一方の手は娘の肩を引寄せ、一方の手は娘の背を撫でる。二人はキスした。秋子さんは大きく目を見開いた。(んまあっ!父娘でっ!)父の手は夏子さんの胸に移動し、乳房を揉んだ。
「むはーっ!」夏子さんが呻く。
父の手は夏子さんのおっぱいを絞り上げたり、大きく揺すったり、乳首を摘んだりした。
「あうーん!」と夏子さん。
父の手は夏子さんの脇腹を擦ってお尻の膨らみを撫で擦る。その手は太股を撫で廻し、股間へと移動する。父は娘の割れ目を指でなぞっている。
「むむむ!」夏子さんが呻く。
二人は舌を絡め合うフレンチ・キスをする。

それは秋子さんにとって美しくもおぞましい光景だった。男と女の裸体がこんなに美しいものとは知らなかった。眼前の男女の肉体の触れ合いはロダンの彫刻『接吻』のようだった。しかし、その男女は実の父とその娘である。許されぬ間柄の二人である。しかも、その父親は未来の総理大臣と目されている人物なのだ。(夢だわ!これは夢に違いない!)秋子さんは思った。秋子さんの目に父のペニスが伸び始め、どんどん長くなるのが見えた。夏子さんがやさしくそのペニスを握る。固さを確かめているようだ。
つと、夏子さんが父親との抱擁を解き、かさこそと音を立てていたが、父のペニスに何か被せ始めた。(コンドームだわ!あのコンドームは婚約者とのためではなく、父とのセックスのためだったのだ!)
夏子さんがベッドに仰向けになり、大きく股を開いた。父は娘のおっぱいにしゃぶりつき、ぺろぺろぺちゃぺちゃと舐める。そして、娘の股間に伸ばした手でクリトリスを撫で廻す。
「むおーんっ!」夏子さんがよがる。
父の指が娘のおまんこを出入りする。
「あううーっ!」夏子さんが身悶えしてよがる。
父が娘の脚を跨いで娘の股間に位置した。コンドームを被せたペニスで娘の割れ目をなぞる。愛液に導かれ、ペニスは娘の膣口にめり込む。父がぐぐぐーっと腰を押す。
「あむーんっ!」夏子さんが叫ぶ。

(こんなっ!こんなことがっ!)秋子さんはわなわなと身体を震わせていた。目を伏せたかった。秋子さんは純真なお嬢さんだったから、ポルノ映画もセックス・ショーも見たことがなかった。XXX写真すら見たことがない。いきなり、男女の性の交わりを生で見せられている。ショックだった。愛し信頼していた父親と姉の一人が肉体で交わるなんて!自分の目が信じられなかった。しかし、これは夢でも幻想でもなかった。

父は娘の両の乳房を揉みながら、腰を右旋・左旋させていた。
「おうおうおうおう!」夏子さんが父の背に廻している手の指の長い爪が父の背に食い込んでいる。
父がピストン運動を始める。
「おおーん!わあーん!」夏子さんが興奮する。

秋子さんの股間が濡れ始めた。(何てこと!)秋子さんは驚いた。(父と姉の禁断のセックスを見ながら興奮するなんて!)

父は娘の太股を上に押し上げ、おまんこを上向きにした。互いの性器を密着させるためだ。父が恥骨同士をぐりぐりと擦り合せる。
「ぐむーんっ!」あられもない姿の夏子さんが愉悦に呻く。
父がずぼずぼとペニスを抜き差しする。夏子さんのクリトリスが圧迫される。
「わおーん!」夏子さんが天国へ行きかける。
父が急速なピストン運動で娘の体内を滅茶苦茶に突つく。
「わあーんっ!」夏子さんは天国へ召された。
「んぐぐーっ!」衆議院議員・森 義一氏がわが娘の体内でどぴゅぴゅーん!と射精した。

「ひどい!ひどいわっ!」姉妹が自分たちの部屋に戻ってから、秋子さんが云った。
「ちょっとショックだったかしら?」と夏子さん。
「ショックなんてもんじゃないわよ!何であんなもの見せたのよ!」
「大事なことだからよ。秋子、落ち着いて聞いて頂戴」
「これが落ち着いていられますか!父娘の近親相姦を見せるなんて!」
「秋子。お父様は並外れて精力の強い人なの。今どき珍しく四人も子供を作ったことでも分るわけだけど」
「やりたければお母様とやるべきよ、夏子姉さんとなんかじゃなく!」と秋子さん。
「お母様は44歳の時に閉経して性欲を無くしてしまったの」と夏子さん。「セックスするのが苦痛になってしまったんだって」
「へえ?」
「お母様はお父様に『浮気して頂いても二号を作っても結構』と云ったそう」
「まあ!」
「で、お父様は二号を作った」
「んまあっ!」
「その人は、お父様の幼馴染みの娘さんで未亡人だった人。信用出来る口の堅い人で、関係を暴露される心配はない」
「だったらその人を出張にも連れて来ればいいじゃないの!」
「馬鹿ね。遊説や海外視察に妾を同行したりしたら政治生命終りじゃない。日本の恥だってんで袋叩きよ」

「でも、だからって夏子姉さんとセックスするなんて!」と秋子さん。
「私だけじゃないの」と夏子さん。
「え?」
「お母様がお父様を拒絶したのは春子姉さんが秘書になって二年目だった。お父様は旅先で女を欲しがった」
「まさか?」と秋子さん。
「春子姉さんを犯したわけじゃないわ。安心しなさい」と夏子さん。「お父様がコールガールを呼ぼうとしたのを春子姉さんが気づき、泣いて諌めたんだって。スキャンダルが明るみに出たらどうするって」
「当然だわ」
「お父様が欲求不満で苛々しているのを見兼ねた春子姉さんが洋服を脱いで…」
「やめて!そんな話、聞きたくない!」
「それは春子姉さんが結婚して秘書を辞めるまで続き、私が後を引き継いだの」
「んまあっ!」
「春子姉さんの最後の出張の時、あなたが今晩そうだったように、私もお父様と春子姉さんのセックスを見せられた…」
「ちょ、ちょっと待って!」と秋子さん。「あたしが夏子姉さんの後を引き継ぐと、お父様とのセックスも引き継ぐわけ?」
「そういうことね」
「冗談じゃない!あたし、そんな秘書、御免だわ!」

「お前、お父様を総理大臣にしたくないの!?」と夏子さん。
「したいわよ。でもあたしが身体を提供するなんて嫌!」と秋子さん。
「分ったわ。春子姉さんも私も自分で決断したことだから、お前も自分で判断しなさい」
「当然そうするわよ」
「でも、次の秘書が決まるまで二ヶ月はお前が秘書を務めるのよ。いいこと?」
「えーっ?二ヶ月の間にお父様に犯(や)られちゃうじゃない!」
「お父様はそんなことはしないわよ。大丈夫」
「二ヶ月も〜?」秋子さんが困惑する。
「信用調査って時間がかかるのよ。秘書は議員の行動を全て把握するわけだから、絶対に信用出来る人でなきゃならない」と夏子さん。「お父様がホテルのベッドメークのおばさんに抱きついたり、バーの女を部屋に連れ込んだりすることも知られちゃうんだから」
「それって脅しのつもり?」と秋子さん。
「あはは。分った?」と夏子さん。

その後しばらくは夏子さんの結婚でバタバタしたり、出張もなかったので、秋子さんに肉体の危機は訪れなかった。一ヶ月後、森 義一氏の地元で調整すべき用向きがあり、数日間出張することになった。一日の行動予定を消化し、義一氏と秋子さんはホテルに入った。就寝時刻までスーツのままでいた秋子さんは、スイートの境の戸をノックした。
「おう!」と義一氏。
「先生、今日も一日おつかれさまでした」と秋子さん。
「お前もご苦労だったな」
「もう御用はございませんでしょうか?」と秋子さん。
「頼む」と義一氏。
「は?」と秋子さん。
義一氏はずっこけた。「は?」という返事は予期していなかったからだ。
「御用はなんですか、先生?」秋子さんは承知の上で云っている。
「んーと、その、ナンだ。この前、見ただろうがっ!」義一氏が苛々しながら云う。
「拝見しました。お父様、プライヴェートな問題ですから“先生”はやめます。いいですね?」
「ああ」義一氏が頷く。
「私、近親相姦なんか真っ平です。それに、私処女なんです」と秋子さん。
「お前、22にもなって?」義一氏が驚く。
「私は結婚したい人に処女を捧げるんです。お父様とは結婚出来ませんから諦めて下さい」
「お前、今どきそんな古臭いこと云うなよ」
「古くても遅れててもいいんです。私が決めたことですから」
「うむむ…」義一氏が苦り切る。
「お父様が私を解雇なさりたければ、御遠慮なくどうぞ」
「解雇はせん。今日最後の仕事をやってくれ」
「かしこまりました、先生」と秋子さん。
「電話して明日の夜までに夏子をここへ呼べ。夏子が駄目なら、春子でもいい」と義一氏。
「二人とも結婚してる身ですよ!いけませんよ!」秋子さんが呆れる。
「構わん!」義一氏が云い放った。

結局春子さんが素っ飛んで来て、父・義一氏とおまんこした。春子さんは32歳の熟れ切った身体に、こぼれるような色気を放つ美貌の主である。
「秋子の態度をどう思う?」果ててしばらくした後で義一氏が尋ねた。
「お父様。秋子は私なんかとは一世代違うんです」と春子さん。「姉たちがこうしたから、お前もこうしろ…と云っても駄目です」
「じゃ、どうすりゃいい?」
「お父様が結婚前、お母様にどうアプローチしました?頼もしく、明るく、その辺に転がっている男とは違うということをアピールしたんじゃありません?」
「まあな」
「秋子にも同じようなアプローチをするんですよ」と春子さん。「『やらせろ』じゃなく、秋子の方から胸に飛び込んで来るようにすべきなんです」
「この歳でまた恋愛ごっこかい。面倒だな」と義一氏。
「お父様、スキャンダルを避けるには秋子をものにするしかないんですよ!冬子はまだ18で、当分秘書には無理ですからね」
「うむむ…」義一氏が唸った。

義一氏が数年に一度行なう海外視察旅行の時期となった。秋子さんにとっては初の海外旅行だった。旅程は旅行社が組んでくれたし、各国で雇う通訳がガイドも兼ねてくれるので、秋子さんが四苦八苦しなければならないことは少なかった。義一氏が工業施設や企業・組織を訪れる際には秋子さんも同行したが、大使や日系企業の人々とミーティングを行なう間には一人で観光することが出来た。秋子さんはパリで凱旋門を見、エッフェル塔に上り、シャンゼリゼの街路に沿ったオープンカフェでお茶を飲んだ。

義一氏と秋子さんは二人でレストランへ行った。通訳の人が薦めてくれた大衆的だが美味しいという評判のフランス料理店だった。
「Je voudrais une table pour deux, si'l vous plait.」秋子さんが云った。
「Oui, Mademoiselle.」とホステス(案内係)。
「英語じゃないのか?」義一氏が驚く。
「フランス語の初歩です」
「何て云ったんだ?」
「二人分のテーブルお願いしますって」

ベルリンでは義一氏の希望でビヤホールへ行った。
「Ein Bier und einen Orangensaft bitte.」と秋子さん。
「何だって?」と義一氏。
「ビールを一つとオレンジジュースをお願いって」
「お前はビール呑まないのか?」
「勤務時間中には呑みません」秋子さんが云った。

ヴェニスのレストランで。
「Mi da lo stesso piatto di quello.」と秋子さん。
「何を注文したんだ?」と義一氏。
「あのテーブルで食べてるのが美味しそうなので、同じものをって」
「ふーん?」義一氏も横目で見やる。「いいね。わしもあれにしよう」
「Due, per favore. 二人前にしました」と秋子さん。
「オッケー!」と義一氏。

その夜、スイートの戸を開けて秋子さんが現れた。
「先生…」と秋子さんが云いかける。
「挨拶はいい。まだ寝るな」と義一氏。
「は?」秋子さんが訝る。
「その、何だ、例のは駄目なんだろうな?」
「駄目です」秋子さんがキッパリ云う。
「分った。じゃ、少し話をしよう。ここへ掛けなさい」義一氏が椅子の一つを指す。
秋子さんはやや警戒気味にそろそろとやって来て、父親の向かい側に腰を下ろす。
「正直云ってお前には感心した。英語がペラペラならヨーロッパ中どこでも通じるのに、お前は現地の言葉を使おうと努力していた」
「私、言葉が好きなんです」と秋子さん。
「それだよ。国際親善には言葉が最も大事だ」と義一氏。「片言であれ、相手国の言葉を話すことは相手の印象を良くする。お前はどうやって勉強してるんだ?」
「新幹線の中とか飛行機の中でCDを聞いてます」
「お前が望むのなら、日本へ帰ったら外国人の先生をつけてやってもいいぞ」
「えーっ?」秋子さんが目を丸くする。
「外交官になり、末は大使になれるように頑張ったらどうだ?」
「はいっ!」秋子さんが感激した。

この海外旅行の間、義一氏があり余る精力をどのように処理していたのかは秋子さんにも謎であった。各国でホテルのコンシェルジュ(ロビーにいる総合世話係)を使ってコールガールを呼んでいたのかも知れない。秋子さんは知ろうともしなかった。

帰国して平常の生活に戻ったある日のこと。
「秋子、お前今日面会に来たAさんをどう思う?」と義一氏。
「さあ?いい方だと思いますけど…」と秋子さん。
「とんでもない。あれは食わせ物でね。話の70%は嘘だ」
「えーっ?」秋子さんには信じられなかった。
「お前に人の見方を教える。誰か来る度にお前の印象とわしの知識を突き合わせようじゃないか」
その後、人物に関する二人の印象の突き合わせが何度も行なわれた。議員の事務所には毎日陳情やら相談やらで人が訪れるので、材料には事欠かなかった。
「秋子。N君をどう思う?」と義一氏。N君は文筆面も達者な青年医師として話題の人物だった。
「好ましい方だと思っています。デートを申し込まれました」顔を赤らめながら秋子さんが云う。
「わしの調べでは彼に汚点はない。残るは人物だ。数回デートしたらセックスしてみろ」
「えーっ?」秋子さんがたまげる。
「本当にお前に相応しい男ならお前をイかしてくれる筈だ。そうでなければペケだ」
N君に惚れた秋子さんは、酔った振りをしてN君に抱かれ、処女を喪失した。
「どうだった?」と義一氏。
「ペケでした」秋子さんが顔を伏せて云う。

秋子さんは父親から学ぶことが山ほどあり、父の識見・達見を貪欲に吸収して行った。
「秋子」ある日、義一氏が秋子さんに云った。「語学だけでなく、政治・経済・法律・歴史・国際・文化、全てを勉強し直せ」
「えーっ?」秋子さんが驚いた。
「わしの娘たちの中でお前が一番骨があると見た。政治家に向いている。上の二人の娘も気だてが良く聡明だが、気骨に欠けている。冬子はまだ未知数だ」
「どういうことですか?」と秋子さん。
「わしが引退したらお前が地盤を引き継げ。わしが総理大臣になった後、数年後にお前も総理大臣になるんだ」
「そんなっ!」信じられなかった。「私をおだててベッドにおびき寄せようというんじゃありません?」
「わしをそんな風に見るようじゃ、お前の人の見方もまだ未熟だな。ま、いい。考えときなさい」

秋子さんは青年実業家・S君と知り合う機会があった。二人は何度かデートを重ねた。
「S君はどうだね?」と義一氏。
「素敵です!」秋子さんが嬉しそうに云う。
「イかしてくれたのか?」
「ええ!」秋子さんの頬がぽっと赤くなる。
「わしが夏子をイかしたぐらい良かったか?」
「さあ?」見るのと感じるのでは大違いだから、答えられるものではない。
「これを見ろ」義一氏が書類の入った大きな封筒を投げ出した。
「何ですの?」読み出した秋子さんの顔色が蒼白となり、書類を持つ手がぶるぶると震えた。
「バーの女を妊娠させること二回。一人からは訴えられている最中だ」と義一氏。「バーの女とコンドーム無しでやるという意味が分るか?性病だのエイズだのを貰う危険が極めて大ということだ。お前も感染しているかも知れん」
秋子さんは総毛立つ思いだった。
「そんな軽薄な男に惚れたのか?」
秋子さんは恐れ戦いた。秋子さんは保健所に行きエイズの検査をして貰った。産婦人科で性病の検査もした。幸い、どちらにも感染していなかった。

秋子さんの父親を見る目が変わった。政治家として尊敬に値する人物というだけでなく、人間としても秀でていた。秋子さんが盲目的に惚れた男たちに較べれば雲泥の差であった。(この父について行こう!)秋子さんは決心した。

ある出張の夜、秋子さんはスイートの戸を開けた。パジャマではなくネグリジェである。
「先生、もう御用はございませんでしょうか?」と秋子さん。
「ああ。御苦労さん。ゆっくりお休み」とベッドの中の義一氏。
「あの…」秋子さんが呟き、身体の後ろから何か取り出した。
「ん?」義一氏が怪訝な顔で娘を見る。娘が手にしているのはコンドームの箱だった。
「おおっ!」義一氏の目がまん丸に見開く。
「御用の際はいつでもおっしゃって下さい」と秋子さん。
「頼むっ!来てくれ、早くっ!」衆議院議員・森 義一氏のペニスが天井を向いておっ立っていた。




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