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24. 娘を抱いた渡り鳥

「♪赤〜い夕陽よ、燃え落ちて…」飲屋街を唄いながら歩いているのは、若い頃颯爽たるギターを持った渡り鳥だった滝 伸次。中年のおじんとなった今は横浜・伊勢佐木町界隈のバーや飲み屋を流して歩く、しがないギター弾きに過ぎなかった。
「ちわーす!一曲いかがすか?」ある居酒屋の暖簾を掻き分けた伸次が、ギターを爪弾きながら云う。
「おう!小林 旭の『熱き心に』頼まあ!」酔客がリクエストした。
「へい」伸次がギターを構えて弾き出す。「♪北国の旅の空〜」渋い歌声が流れる。
唄い終えて店を出た伸次の肩をぽんぽんと叩く者があった。
「だ、誰でえ?」伸次が振り向いて驚いた。
「似たような声だと思ったが、まさかあんたとはな…」豊頬手術をしたのが見え見えのヤクザ、ハジキの錠がニタっと笑った。
「なーんだ。誰かと思えば錠じゃねえか。脅かすねえ」と伸次がハジキの錠の胸をド突いた。
「顔貸せ。ちっと話がある」ハジキの錠が云った。

錠は行きつけのバーに伸次を誘った。
「いらっしゃい。チーママの渡辺巳佐子でーす。どーぞよろしく」チーママをはじめ女たちが出迎えた。
「ママ。これはおれの古い馴染みなんだ。ちっと積もる話があるから二人だけにしてくれ」錠が人払いした。
「何だ、話って。面倒なことには巻き込まれたくねえぜ」伸次がグラスのウィスキーを飲みながら、店の中を見回す。
「もう昔たあ違う。ドンパチの話なんかじゃねえ」錠が気を持たせるように伸次の顔を見つめる。「あんた、ルリ子さんに惚れてたよな?」
「ル、ルリ子さん?」驚いた伸次が、ウィスキーを喉に詰まらせて咽せる。ルリ子とは渡り鳥時代に知り合い、お互いに好意は持ちながらも好きと云えずに別れた女性だった。伸次はルリ子のことが忘れられず、日本各地で杏子、由紀、則子、靖子、順子、由美などという名前の女性たちの苦難を救ったが、その理由は彼女たちが一様にルリ子そっくりの容貌の持ち主だったからであった。
「ああ。おれの知る限り、ルリ子さんは京都じゃ忍(しのぶ)と呼ばれ、神戸じゃ渚と名乗ってたぜ」と錠。
「ルリ子さんはそこまで落魄したのか?」伸次には信じられなかった。金持ちの娘で純真無垢だったルリ子さんが水商売に身を落とすなんて。
「みてえだな」錠がウィスキーを呷る。「でもって、そのルリ子さんが、このハマにいるとしたらどうする?」
「えーっ?」伸次が呆然とする。

伸次は錠が教えてくれたキャバレー「フラミンゴ」に行った。
「おっと!おっさん、待った!」二人の男が入り口で立ち塞がった。「うちにゃ歴とした専属の楽団があるんでえ。流しなんかの出る幕じゃねえ」と元ボクサーのように鼻のつぶれた一人が云った。
「おれは商売しに入ろうとしてんじゃねえ。人探しだ。入れてくれ」と伸次。
「駄目だ。帰(けえ)れ」ともう一人の四角い顔の男。
「あんた、マネージャーか?」伸次が聞く。
「マネージャーじゃねえが、このキャバレーのオーナー金子信男の子分の近藤宏志ってもんだ。覚えとけ」と四角い顔。
「おらあ、ここらじゃちったあ知られた顔の高階 格ってんだ」と鼻のつぶれた男。
「あんたらじゃ話にならねえ。マネージャーと話す」伸次が二人を掻き分けて通ろうとする。
「なにい!待て!」高階 格が息巻く。
「この野郎!」近藤宏志が伸次に殴り掛かる。
近藤宏志の一撃をダックして避けた伸次は、近藤宏志にボディブローを食らわせ、背後から襲いかかった高階 格の金玉を蹴上げた。

伸次が昔取った杵柄で勝利を収めたかに見えたその時、騒ぎを聞いて駆けつけて来た金子組のチンピラ数名に囲まれ、凄まじい乱闘となり、伸次のギターは滅茶滅茶に壊され、多勢に無勢でついに伸次も羽交い締めにされて叩きのめされてしまった。「フラミンゴ」の入り口に横たわった伸次の周りに野次馬やホステスらが人垣を作った。その中から、見るからにホステスと分る派手な真っ赤なドレスの女が、人垣を掻き分けて駆け寄った。
「伸次さんじゃない?伸次さんっ?」その女は水商売にはそぐわない、きりりとしたお嬢様風の顔立ちをしていた。
「ルリ子さんか?いけねえ、みっともねえとこ見せちまって…」伸次が起きようとする。「イテテテテ。クソ!」伸次が呻いた。
「まあっ!立てます?歩ければ、あたしのアパートがすぐそこです。行きましょ?」
「いいんですかい?仕事中でしょ?」と伸次。
「いいんです。さあ!」ルリ子さんが伸次を抱き起こす。
伸次はルリ子さんの肩に手を廻し、足をよろめかせながら歩いた。ルリ子さんは小綺麗な3DKのアパートに伸次を招じ入れた。

伸次はソファにぶっ倒れた。ルリ子さんは濡らしたタオルで伸次の顔を拭き、アイスパックで伸次の腫れた頬を冷やした。
「お腹の方はどう?お医者さんに行かなくて大丈夫?」ルリ子さんが心配する。
「なあに、一晩寝りゃあ大丈夫。ありがとう」伸次がルリ子さんの目を見ながら云う。
「あなたってひどい人」とルリ子さん。「あたしはあなたが好きだった。あなたもあたしが好きだった筈。それなのに、唇に触れもしないで消えて行ってしまったんですもの」ルリ子さんがしくしくし、ハンカチで涙を拭く。
「あの当時、おれは流れ者でしたからね。日本中あちこち馬に乗って旅し、挙げ句の果てにタイにまで出掛ける始末だ」伸次が述懐する。「お察しの通りルリ子さんには惚れてましたが、流れ者が結婚を申し込むわけにもいかなくて…」
「あたし、どこへでもお供するつもりでした。あの時一緒になっていれば、こんな…」ルリ子さんが泣き崩れる。

「何です、一体?何か込み入った事情でも?」伸次が聞く。
「聞かないで、伸次さん。惨めでとても云えないわ」ルリ子さんがしゃくり上げる。
「そうすか。じゃあ聞きませんが、その代わり…」伸次がルリ子の目を直視して云った。「おれと結婚してくれませんか?」
「えーっ?」ルリ子さんが驚き、そして複雑な顔をして途方に暮れた。
「断っときますが、おれには死んだ女房との間に娘が一人いて、いま一緒に暮らしてます。それを承知してくれんならの話だが…」と伸次。
「伸次さん、ありがとう。嬉しいお話ですけど、あたしは結婚出来ません」とルリ子さん。
「久し振りに会ったばかりで結婚を申し込んでオーケーされると思うほど、おれも能天気じゃあない」と伸次。「ゆっくり考えて下さい」
「いえ、そういうことじゃなく…」ルリ子さんが何か云おうとするが、言葉にならない。
「今度『フラミンゴ』に行く時は客として行きます。ルリ子さんを指名すれば奴らも文句云えんでしょう」伸次が云った。
「…」ルリ子さんは目を伏せて畳の目を数えていた。

「お父ちゃん、お帰(かえ)り!」家に戻ると、伸次の娘・瑠璃子ちゃん(12歳)が飛ぶように出迎えた。「あら!何その顔っ!」瑠璃子ちゃんが、父親の腫れ上がった顔に驚く。瑠璃子ちゃんは、伸次がダンサーの赤木マリに生ませた子供で、ポニー・テール、色白の瓜実顔に、太い眉、やや釣り上がった目、ふっくらした頬、おちょぼ口の可愛い少女。
「顔なんかどうでもいい。お前、お父ちゃんが何でお前に瑠璃子って名前をつけたか覚えてるか?」と伸次。
「忘れるわけないよ。初恋の人でしょ、お父ちゃんの」と瑠璃子ちゃん。
「そうだ。で、今日、何十年振りかでその女(ひと)と再会したんだ」
「へーっ?」
「お父ちゃんな、その女(ひと)に結婚申し込んだ」
「えーっ?」瑠璃子ちゃんがたまげる。
「いい人だ。お前もきっと気に入るぜ。その女(ひと)もお前を可愛がってくれる。絶対だ」痣だらけの顔の伸次が微笑もうとする。「イテテテテ!」
「でもさ、お父ちゃんが『るりこー!』って呼ぶと、あたいもその女も『ハイ!』って返事することになるじゃん?」と瑠璃子ちゃん。「紛らわしいじゃない。やだよ、そんなの」
「名前なんかどうだっていいだろ。おれたちみんなが幸せなら問題ない」と伸次。
「やだなあ…」瑠璃子ちゃんは呆然として宙を見つめていた。本当は名前だけの問題ではなかったのだが…。

その夜、伸次が消灯して布団にくるまった時、すーっと襖が開いて瑠璃子ちゃんが入って来た。瑠璃子ちゃんは父親の掛け布団を持ち上げ、身体を滑り込ませた。
「お父ちゃん、おまんこしたいんならあたいとやって!」瑠璃子ちゃんが父親の身体に抱きつく。
「な、なんだと?」伸次がぶったまげる。
「あたいだっておまんこはあるんだ」と瑠璃子ちゃん。「そんな女と結婚しなくたって、おまんこ出来るんだからさ、あたいとやればいいじゃないよ!」
「お、お前!」伸次が思わず確かめるように娘の身体に触る。娘はすっぽんぽんだった。裸の胸、裸の尻。40を過ぎた伸次には御多分に漏れずロリコンの気も出て来ていたから、思わず娘の青い身体を撫で廻してしまった。平らな胸、丸っこいお尻。そして股の間の可愛い割れ目。伸次のペニスがぎゅいーん!と勃起した。(いけね、やりたくなっちまうぜ)伸次はびくっとして手を引っ込めた。
「ぎゅってして、お父ちゃん!」瑠璃子ちゃんが父親の身体にしがみつく。
「る、瑠璃子、やめろ、出てってくれ!」伸次は両手を伸ばし、娘の身体を遠ざける。
「出てかないもん、お父ちゃんがあたしとおまんこしてくれるまで出てかないもん!」瑠璃子ちゃんが必死で云う。
「瑠璃子。夫婦ってもんはな、セックスだけじゃねえ」伸次が説明した。「好きな相手とずっと一緒にいたいもんなんだ。共に歳をとって行くいい伴侶が必要なんだよ」
「お父ちゃん、あたいが嫌いなの?」瑠璃子ちゃんが膨れる。
「お前は可愛い。大好きだ。だが娘と女房は違うからな」と伸次。
「娘を女房にすりゃいいじゃん!」瑠璃子ちゃんが父親の股ぐらを探り、勃起したペニスを掴んでぐりぐり擦る。
「や、やめろ!瑠璃子!やめてくれ!」伸次が慌てた。

翌日、伸次は苦労した末、ハジキの錠の所在を探し当てた。
「ルリ子さんには何か事情があるらしいんだが、あんた知ってるか?」伸次が尋ねた。
「おれも詳しくは知らねえ。抜き打ちの竜に聞いてみな」と錠。
「抜き打ちの竜?」
「本名は剣崎竜二ってんだが、いま「フラミンゴ」のオーナー金子組に飼われてる。奴なら知ってる筈だ」

錠が竜に連絡してくれ、伸次は竜と喫茶店で会うことが出来た。伸次は竜がまだ20代なのに驚いた。竜はスポーツマン・タイプで、短髪、どこか日本人離れした眉目秀麗な若者。
「なんだ、その面(つら)。おれが若造なんでびっくりしたのかい?」竜が座りながら云った。
「い、いや」伸次は一端否定したが、「正直云うとそうだ。錠の息子みてえな歳なんでな」と云った。
「あはは。あんた正直だな。気に入ったぜ。あ、コーヒー」竜がウェイトレスに注文した。「で、何だい。何か聞きてえんだって?」
「『フラミンゴ』のルリ子って女のことだ。何かよっぽどの事情があるらしいんだが、教えてくれねえか?」
「ああ、あの女のことか」竜が話し出した。数年前、ルリ子さんの弟が事業に失敗し、かなりの赤字を出した。そればかりでなく、債権者から訴えられ十年以上臭い飯を喰うところだった。しかし、前々からバーでルリ子さんを見初めていた金子組々長の金子信男が、彼女に「あんたがおれの情婦になってくれるんなら、弟さんの窮状を助けてやってもいい」と持ちかけ、まんまと成功した。ルリ子さんをアパートに囲っただけでなく、自分の店「フラミンゴ」で働かせてもいる…と。
「…」伸次は愕然とした。ルリ子さんが「結婚出来ない」と云った裏にはそういう深い事情があったのだ。「その金子ってのはどういう野郎だ?」と伸次。
「呉のヤクザ山守組の親分・山守義雄の双子の兄弟だ」と、コーヒーを飲みながら竜。「養子に出されて金子って名乗ってるが、何かあれば呉のヤクザ軍団が助けに飛んで来るんで、大船に乗った気でやりたい放題さ」
「金子組の裏の商売は何だ?ヤクか?」と伸次。
「ふん、おれの口からそんなこと云えるかい。自分で調べるんだな」竜が立ち上がった。

その夜、伸次は「フラミンゴ」に行き、ルリ子さんを指名した。
「ルリ子さんの家庭の事情は伺いました。金子信男との関係も」と伸次。
「まあっ!」ルリ子さんが顔を暗くし、俯いた。
「でもおれの気持ちは変わらねえ。結婚して欲しい。十数年の想いを叶えようじゃないすか」伸次が熱っぽく云う。
「嬉しい…」ルリ子さんが片手で目の縁を抑える。
「善は急げだ。金子に会わせてほしい。あなたなら社長室に入れるでしょう?」伸次が立ち上がって、ルリ子さんを促す。
「えーっ?」ルリ子さんが伸次の性急な行動に驚く。

ルリ子さんの先導で社長室に向かった。金子の子分たちが伸次の身体をぱたぱた叩き、銃や刃物を持っていないことを確認した。ルリ子さんが社長室のドアをノックする。
「おう!」と声がし、金子の一の子分・田中国衛がドアを開けた。田中は縮れた短髪、長いモミアゲ、猿のような顔の小男で、黒の上下に身を包んでいる。「なんだ、ルリ子さんか。ん?誰でえ、そいつは?」
「あたしの昔馴染の滝さん。社長に挨拶させたいの」ルリ子さんが田中国衛の目を見つめながら云い、田中を押し退けて通る。
「おう、ルリちゃん!」鼻の脂をパフで叩いていた金子信男が、相好を崩しながらソファから立ち上がった。金子は丸顔にチョビ髭の小男。金子はルリ子さんに続いて入って来た伸次に気付いた。「わ、われ、誰じゃ?」金子は眼鏡の中の目をきょときょと動かしておどおどさせた。刺客を恐れているのだ。
「社長さん?あたしの古いお友達の滝さんです」ルリ子さんが伸次を振り返りながら云う。
「お初にお目にかかります。滝です。お見知り置きのほど」伸次がぺこりと頭を下げる。
「こんなぁ(お前)、どこの組のもんじゃい!」金子が聞いた。
「なあに、しがねえ流しのギター弾きでさあ」と伸次。
「なにい?イモみてえな流しなんぞに用はないけん、はよういねや(早く帰れ)」と云い、金子は鼻の下を長くしてルリ子を抱きすくめた。
「そのルリ子さんを頂きたい」突然、伸次が云った。
「な、なあにコキよるんない、こんクソっ!」金子が頭から湯気を出す。
「こんの野郎〜!誰にもの云うとんじゃ、わりゃー!」田中国衛がいきり立つ。

田中国衛はドアの外の子分二人を呼び入れて伸次を羽交い締めにさせ、伸次をぶちのめすと、又もや「フラミンゴ」の外に放り出させた。金子に引き止められたルリ子さんは、今度は伸次を介抱することも出来なかった。

帰宅したぼろぼろの伸次の姿に瑠璃子ちゃんが驚いた。「お父ちゃんっ!このままじゃ殺されちゃうよっ!」
その夜、瑠璃子ちゃんは又も全裸で伸次の寝床に滑り込んだ。
「お父ちゃん、その女は諦めて、あたしとやってっ!ね?」瑠璃子ちゃんは伸次の下半身を露出させ、フェラチオを始めた。
「やめろ、瑠璃子!お父ちゃんにはルリ子さんが必要なんだ!」
父親のペニスを口に含みながら、瑠璃子ちゃんがわあわあ泣いた。

数日後、伸次が伊勢佐木町を流していると、あるバーのママがルリ子さんからの手紙を渡してくれた。「明日の朝、9時に港が見える丘公園に来て下さい」というメモであった。伸次は一読後そのメモを細かく破り捨てた。

「近いうち、中国人相手にヘロインの取引があるらしいんです」とルリ子さんが云った。「金子はケチだし誰も信用しないので、大きな取引には必ず自分が出て行きます。このチャンスに金子を逮捕させることは出来ないかしら?」
「マトリ(麻薬取締官)にタレ込むことは出来ます。おれがやりましょう」と伸次。麻薬取締官は厚生労働省に属し、警察官ではないのだが麻薬密売流通ルートに立ち入る場合などには拳銃などで武装出来ることになっている。

伸次は地方厚生局に行き麻薬取締部のドアを叩いた。
「麻薬取締官の垂水吾郎です」応対に出た長身・細身の中年男が云った。
「確かな筋の話だ。明後日、金子組がヘロインの取引をするそうだ」と伸次。
「ほう、金子組が?」垂水吾郎が目を細めた。金子組は横浜の麻薬ルートの一大拠点であり、金子組を潰すのは垂水吾郎ら取締官たちの悲願であった。
「取引場所は山下第10号埠頭、時刻は午前零時」伸次が云い、垂水吾郎がそれをメモした。「一つだけ条件がある」と伸次。「もし、金子が情婦を伴っていたら、彼女の身の安全を第一にして貰いたい。今回の情報源は彼女なんだ」と伸次。
「ほう?」垂水吾郎が興味深そうな顔をした。「分りました。お約束しましょう」

その夜、伸次は流しの途中、あるバーで偶然ハジキの錠に出会った。
「よう!」と伸次。
「ママ、こいつにも水割り」錠が云った。
「いらっしゃい。あたし、店を預かってる外原早苗です。よろしく」とママ。
伸次はママを遠ざけ、彼の計画について錠に話した。
「水臭(くせ)えじゃねえか」と錠。「先に話してくれりゃ、おいらが金子を冥途に送ってヤクも横取り出来たってのによ…」
「それも考えた。だけどおめえ、抜き打ちの竜とドンパチやらかしたくねえだろ?」と伸次。
「チッチッ」錠が頬を膨らませまがら舌打ちした。「その心配は無用だったぜ。竜はゴーカートで遊んでて、倉庫の鉄の扉に打ち当たって死んじまったい」
「なーんだ。そうだったのか」伸次が後悔する。
「しかし、マトリが出てくんじゃ、指をくわえて見てるしかねえな」と錠。

伸次とルリ子さんが金子組に対して大博打を打とうとしたその夜、伸次はかなり早めにタクシーで山下埠頭に赴き、無数に並んでいるコンテナの蔭に身を潜めた。

午後11時半。一台の黒塗りの乗用車が静かにやって来て、男が一人降り立った。ヘロインの売り手の中国人か、買い手の金子組の者かどうかは分らない。男は双眼鏡を手に、辺りを点検し出した。(暗視装置付きの双眼鏡に違いない)コンテナに隠れながら、伸次は思った。辺りが無人であることを確認した男は、車に乗り込み、車を物陰に引き入れた。

11時45分。一台の乗用車が来て倉庫の傍らに停車した。双眼鏡の男が暗がりから進み出て、車内の男に何か合図した。車からは誰も下りて来ない。

11時50分。別な二台の車がやって来た。最初の車からバラバラッとヤクザっぽい男たち数人が飛び出し、周囲を固めた。二台目の車の助手席からアタッシェケースを持った田中国衛が降り立ち、後方のドアを開けた。遠くから見守っている伸次は金子の降り立つ姿を期待していたが、金子ではなくルリ子さんが出て来た。そして、ドアは閉められた。金子は乗っていなかった!伸次は口をあんぐり開けた。金子をマトリに逮捕させる計略は失敗したのだ。

先に到着し倉庫の傍に停まっていた車から数人の男が降り立ち、中型のバッグを手にした男が田中国衛に歩み寄った。田中国衛がアタッシェケースを開けて札束を見せる。バッグを手にした男もバッグを開け、中の包みを見せた。田中国衛の手下の一人がその包みを開き、唾をつけた指先に少量の粉を付着させて舐めた。そして田中国衛に頷いた。二つのグループがアタッシェケースとバッグを交換した。

その時、パタパタパタという音がし、海側から一条のサーチライトが近づいて来た。神奈川県警のヘリであった。ヘリは二組のヤクザの上を旋回し、拡声器から「麻薬取締部だ。誰も動くな。全員を逮捕する!」という垂水吾郎の声が轟いた。
「ルリ子っ!」田中国衛が叫んだ。「こんなぁ(お前)、おやっさん(親分)を売ったな?」田中国衛は手下の一人を振り向いた。「殺(や)れ!」命じられた手下がベルトから拳銃を引き抜いた。ターンっ!と音がし、ルリ子さんが倒れた。
「ルリ子さんっ!」伸次が絶叫して駆け寄るのと、サイレンを鳴らしたパトカー十台ほどが詰めかけるのと同時だった。
ヤクザたちは全員立ち竦んだ。警官たちが拳銃片手にバラバラッと近寄り、ヤクザたちを逮捕した。
「ルリ子さん!」伸次が撃たれて倒れたルリ子さんを抱き起こす。
「伸次さん?最後のお願い。キスして?」ルリ子さんがか細い声で云った。
「ルリ子さん!しっかりして!」伸次が、死にそうな声のルリ子さんを励ます。
「早く…」ルリ子さんが催促する。
伸次は人目も気にせずルリ子さんに口づけした。ルリ子さんは一瞬微かな笑みを見せ、がっくりと首を垂れた。伸次は信じられない思いで、ルリ子さんの死を見守った。

着地したヘリから降り立った垂水吾郎が現場を指揮し、証拠集めその他を実施した。
「滝さん?」垂水吾郎が近づいて来た。「全部芝居だった。包みの中身はヤクではなく砂糖。逮捕出来るのはその女を撃った野郎だけだ」
伸次は頭から血の引く思いだった。ルリ子さんと伸次の裏切りを予期した金子が、二人をペテンにかけたのだ。

帰宅した伸次は、一言「ルリ子さんが死んだ」と云うなり自室に引き篭もり、わあわあ泣いた。泣き声が収まった頃、ネグリジェ姿の瑠璃子ちゃんが伸次の部屋に静かに滑り込み、伸次に寄り添った。
「抱いて!おまんこしなくていいから抱いて!」瑠璃子ちゃんが云い、父親の両手を自分の身体に廻させた。
伸次は空ろな思いで娘の身体を抱いた。人肌の温もりは心を和ませる。それが異性の肌であればなおさらである。「ルリ子さん、ルリ子さん」伸次が呟きながら、娘の身体をぎゅっと抱き締め、背中を撫で擦った。
(お父ちゃんはあたしを初恋の女だと思ってる!)息の詰まるほど強く抱擁されながら、瑠璃子ちゃんは思った。しかし、嫌な気はしなかった。なにしろ、そのライバルはもうこの世にいないのだから。
伸次は無我夢中で娘にキスした。ルリ子さんとのたった一度の、そして最後のキスを思い返しながら。
瑠璃子ちゃんは父親との初めてのキスにうっとりした。瑠璃子ちゃんが溜め息とともに、うっすら唇を開く。父親の舌が滑り込んで来て、自分の舌が舐め廻された。
伸次も陶然となっていた。ルリ子さんとこんなキスは出来なかった。伸次は娘の身体を撫で廻しながら、激しく娘の舌を吸い、絡め合った。伸次のペニスがむくむくと鎌首をもたげた。

死の恐怖と相対した人間は自らの「生」を確認せずにはいられなくなる。人間は(動物全てそうだが)「生き続ける」ことを至上命題としてプログラムされている。何のために生きるのか?生殖行為によって出来るだけ多く子孫を残すためである。それが生きとし生けるものに課せられた使命なのだ。死の恐怖に直面した人間が発情するのは、そのプログラムが促す必然の帰結なのである。

伸次は娘の尻を撫で、ネグリジェの裾から手を入れてパンティ越しに娘の股間を撫でた。そこは艶かしいキスの刺激によって、パンティに滲みを作るほど濡れていた。伸次のペニスが完全勃起した。

「お前をルリ子さんだと思って抱くが、それでもいいか?」伸次が尋ねた。
「いいよ!」瑠璃子ちゃんがこっくりした。
「おれのことは『お父ちゃん』じゃなくて、『伸次さん!』って呼ぶんだ。いいな?」
「分った」瑠璃子ちゃんが云って、布団を敷き、ネグリジェと下着を脱いで全裸になった。
伸次も着ているものを全部脱ぎ、パチンと電気を消した。

伸次は手探りで娘の身体に触れた。意図的に瑠璃子ちゃんの胸と恥丘に触るのは避ける。ルリ子さんは痩せ型だったとはいえ、成人女性なのでちゃんと乳房の膨らみを備えていたし、陰毛も当然あった筈だ。発育途中の瑠璃子ちゃんの無乳の胸、無毛の恥丘はルリ子さんのイメージを損なってしまう。伸次は瑠璃子ちゃんの股を広げ、太腿やお尻を撫で廻した。女になりかけの瑠璃子ちゃんのそこには、充分肉がついていた。伸次は娘の割れ目を開き、クリトリスを舐め出した。
「うううう、ううううーっ」父親が与えてくれる性の快感に瑠璃子ちゃんが唸る。
伸次は娘のクリトリスをべろべろしたり、つんつんしたり、ぐっと圧したりする。
「おおお、おーっ、あふーんっ!」瑠璃子ちゃんがよがる。
クンニを続けながら、伸次は指で膣口や蟻の門渡りも撫で廻す。
「ひーっ!むひーっ!」瑠璃子ちゃんが身をよじって快感の洪水に苦悶する。
伸次は指を娘の膣口に入れる。
「あっ!」(痛いっ!)と思ったが瑠璃子ちゃんは堪えた。成熟し切ったルリ子さんに処女膜はない筈だからだ。
娘をルリ子さんと思い込んでいる伸次には処女膜のことなど思い至らなかった。伸ばした指の腹を上に向け、Gスポットを探った。
「あひーっ!」Gスポットを刺激された瑠璃子ちゃんが身をのけ反らしてよがる。
伸次は娘の膣口や肛門をべろべろ舐めた。
「あっはーんっ!伸次さんっ!」瑠璃子ちゃんが父親に指示された通りに呼びかける。「やって!おまんこしてっ!」
「よし!」伸次が起き直った。

「ルリ子さん、やるぜ」と伸次が云いつつ、娘の股間に膝を突き、ペニスを娘の膣口に当てる。
「やって、伸次さん!」と瑠璃子ちゃん。
伸次が、娘の愛液まみれの膣口にぐいぐいっとペニスを押し込む。
「あっ」と瑠璃子ちゃんが呻いた。指で破られなかった残りの処女膜が切れたのだ。瑠璃子ちゃんは耐えた。でないとぶち壊しになってしまう。
「ルリ子さん、どんなにあなたとこうしたかったことか!」娘と性器を交えながら伸次が感慨深げに云う。
「あ、あたしもよ、伸次さんっ!」瑠璃子ちゃんが健気にお芝居を続ける。
「ルリ子さん、愛してる!」と伸次。
「伸次さん、あたしも愛してる!」と瑠璃子ちゃん。
伸次がゆっくりと腰を廻す。右に左に。そして恥骨同士を擦り合わせる。
「わおーっ、うっぐーんっ!」巧みにクリトリス刺激されて、瑠璃子ちゃんが興奮する。
伸次は腰の動きを続けながら、身を屈めて娘の唇を求める。二人の唇が合わさり、互いに舌を突き出して舐め合う。
「ぶぐぶーっ、ぶびーっ!」口を塞がれた瑠璃子ちゃんがよがる。

伸次は娘の尻や太腿を撫で廻しつつ、腰を押しつけてクリトリスをぐりぐり刺激する。
「ぐあひーっ!」快感にたまりかね、キスをやめて瑠璃子ちゃんが叫ぶ。瑠璃子ちゃんが腰を突き上げ、深い性交を催促する。
「ルリ子さん、いくぜ!」伸次がピストン運動を始める。
「イかせて、伸次さん!」瑠璃子ちゃんが父親のペニスに突きに合わせて腰を突き上げる。「ぐわーっ!」
「ルリ子さんっ!」伸次がペニスを激しく娘のおまんこに突き立てる。
「ぐわーっ!し、伸次さんっ!いひーっ!」瑠璃子ちゃんが目眩(めくるめ)く性感に溺れる。
「ルリ子さんっ!」どっぴゅーんどぴゅんぴゅーんっ!と伸次が娘の体内で精液を迸(ほとばし)らせた。
「し、死ぬ〜っ!」死んだルリ子さんの代役の瑠璃子ちゃんも死んだ。




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