10. 歌姫
宏君のアルバイト先の上司である大伴 勝君(33歳)が、小さな封筒を差し出した。
「何ですか?」と宏君。
「家内が『蝶々夫人』を演ってるんだ。観に行ってやってくれ」勝君が封筒の中のチケットの端を見せた。勝君の奥さん・真希さん(31歳)は世界的なオペラ歌手なのだ。
「オペラなんて分りませんよ。それにイタリア語なんでしょ?」
「今度のは日本語だ、安心したまえ。由美子さんの分も入っている」
「わあ!妹、喜びます」
「ただし、」と勝君。「オペラが終わったら、由美子さんには悪いが一人で帰って貰う」
「はあ?」宏君はわけが分らない。
「君は家内の楽屋を訪ねてくれ。入れるように手配しておくそうだ」
「大伴さんと一緒じゃないんですか?」と宏君。
「おれがいたら邪魔だろう。サービスしてやってくれ、いいね?」勝君は謎めいたことを云って去って行った。
その切符は一週間の公演の中日の夜の部だった。その日迄の数日間、宏君はあれこれと考えた。“邪魔”とか“サービス”などのキーワードが問題だった。妹を帰して、一人だけで楽屋を訪れるというのも妙だった。どう考えても勝君は自分の奥さん・真希さん(31歳)と自分を二人切りにしたがっている。真希さんがおれとやりたがっているのか?世界中に名の知れたプリマドンナ・真希さんが、一介の家庭教師と?そうだとしても、自分の妻をアルバイト学生に差し出す夫がいるだろうか?真希さんの強い希望に敵わなかったとか?でも、毎週自宅へ行っているわけだから、その時だってやろうと思えばやれる。なのに、何故?
ついに当日となった。宏君と由美ちゃんは一張羅の服を着て出掛けた。その劇場はこじんまりとしているが都内でも最も贅沢な造りとして有名なもので、音響の良さでも定評があった。着飾った観客が全ての座席を埋め尽くしている。彼らの豪華な装いに較べると、若い二人の一張羅は普段着にしか見えない。二人は早く場内が暗くなることを願っていた。
幕が開いた。兄妹は手を握り合った。外人の役を日本人の歌手が演じているのに抵抗があったが、真希さんの蝶々さんが登場するに及んで、全ての不満は消し飛んだ。大伴家のダイニングで見た普段着の真希さんは、どこにでもいる主婦でしかなかったが、いま舞台に立っている真希さんは世界一流のソプラノ歌手である。その妙なる歌声は劇場の隅々にまで心地よく響いた。真希さんの体型は15歳の蝶々さんを演じるにはちと無理があったが、それを可愛らしい仕草と表情で補う表現力は素晴らしかった。
オペラは二幕を終え、いよいよ悲しい三幕目に突入した。宏君は『蝶々夫人』の物語に身を委ねながらも、頭の半分で別なことを考えていた。(この女性とやれるのか?雇い主の奥さんと?世界的オペラ歌手と?このおれが?)宏君はいつの間にか舞台の蝶々さんの着物を頭の中で脱がし、真希さんの裸体を透視していた。裸の蝶々さんを抱き、キスし、胸やお尻をまさぐっていた。
『蝶々夫人』のあらすじを読んでいた由美ちゃんは、蝶々さんの悲劇的運命を知っていたので、物語に先行して早くも涙を浮かべていた。由美ちゃんは、ふと兄の掌がじっとり汗ばんで来たことに気づいた。横目でちらっと兄の顔を窺う。兄は喉仏を大きく動かした。ごくりと唾を飲んだのだ。由美ちゃんはそっと絡めた指を外し、手を兄の股ぐらに伸ばした。そこには硬いものが屹立していた。由美ちゃんは(こんな悲しいお話を観ながら勃起するなんて、何たる不謹慎!)と思った。由美ちゃんは指でピン!と兄の尖ったものを弾いた。宏君は(イテッ!)と思ったが必死で声を抑えた。由美ちゃんはもう兄と手を握るのをやめ、怒ったように腕組みして舞台に見入った。
夫と定めていたピンカートンに裏切られ、子供をピンカートンの妻に託した蝶々さんは自害して果てる。客席のそこかしこから啜り泣きが聞こえる。由美ちゃんも涙をぼろぼろ流していた。幕が下りた。観客は総立ちで拍手した。また幕が開き、自害した筈の真希さんが起ち上がって何度もお辞儀をしたが、決して笑みは見せなかった。あの幕切れに笑みは相応しくないからだ。宏君にもそれが分った。兄妹は最後の最後迄真希さんに拍手を送った。
カーテンコールが終り、場内灯が点いた。観客はぞろぞろと引き揚げ始める。
「じゃね」由美ちゃんが云って、一人でアパートに帰って行った。
宏君はこの後どうしたらいいか分らず、そのまま席に残っていた。
「失礼ですが…」という声がして場内整備の若い男がやって来た。追い出されるのかと思ったがそうではなく、名前を確認された後、「では、一緒に来て下さい」と男が歩き始めた。男は上手側廊下の突き当たりのドアを開け、宏君を先に通し、舞台横から楽屋へと案内した。歌手や付き人、スタッフなど大勢の人が行き交う細い廊下の両側には、大きな化粧室や沢山の小部屋が並んでいる。一番奥の部屋の前に真希さんの名札があった。男は「どうぞ」と云って、ドアを開け、宏君を入れるとすたすたと去って行った。
「いらっしゃい」と真希さんの声がした。プリマドンナ(主役の女声歌劇歌手)だけあって、支度部屋は結構大きい。大きな化粧台の前で、真希さんは丁度蝶々夫人の鬘を外したところだった。メークの女性が鬘をケースに仕舞う。
「先生、おつかれさまでした!」メークの女性は深々とお辞儀した。プリマドンナは“先生”なのだ。
「あ、おつかれさま。明日もよろしくね?」真希さんが愛想よく応える。メークの女性は出て行った。付き人の若い女性が衣装を脱ぐのを手伝い、着物は広げて衣装掛けに掛け、他は丁寧に畳み出す。真希さんは化粧台に向かってクレンジング・クリームで舞台化粧を落す。真希さんがシャワーを浴びに行っている間に、付き人の女性は真希さんの衣装を全て畳み終え、汗ばんだ襦袢等を洗濯物入れの中に収めた。真希さんがシャワーを出てバスローブ一枚で髪をドライヤーで乾かし始めた頃、付き人の女性は真希さんと宏君にコーヒーを入れてくれた。
「あ、どうも」ぼけーっと成り行きを見守っていた宏君が礼を云う。
コーヒーを一口飲んだ真希さんがお化粧を始める。真希さんは鏡の中に、全ての仕事を終えた付き人が直立して次の指示を待っているのに気づいた。
「あ、早苗さん、もういいわ。手筈通りにお願いね」と真希さん。
「守衛さんにはもう心付けを渡しました。先生が退出なさるまで待っててくれます。では、先生、お先に失礼します」付き人の女性が一礼して出て行き、化粧室には真希さんと宏君だけになった。
「御免なさいね、お待たせして」と真希さん。
「いえ」宏君は、これからどうコトが進展するのか分らないので、言葉少なである。
お化粧を終えた真希さんは、依然としてバスローブをまとっままで部屋の隅の段ボール箱をごそごそやっていたが、太い大きな蝋燭を三本とそれを立てる燭台を取り出した。
「宏さん、悪いけど蝋燭全部燭台に差して火を点けてくれる?」真希さんがライターを渡しながら云う。
「はい」宏君が云われた通りにすると、真希さんは宏君に丸めたタオルケットを渡し、燭台を二つ手にするとドアを開けて宏君を待った。宏君は何が何やら分らないまま、残された燭台を手に化粧室を出る。燭台二つを手にした真希さんが先に立ち、長い廊下をサンダル履きで歩いて行く。
「奥さん?」と宏君。
「真希って呼んで」と真希さん。
「真希さん。僕ら、どこへ?」
「すぐそこ。随いて来て」真希さんはずんずん歩いて行く。
螺旋階段を下りる。そこは舞台の袖であった。当然ながら無人で真っ暗である。宏君が蝋燭をかざすと、緞帳や紗幕・背景などを上げ下げするロープが無数に見えた。真希さんはずんずんと舞台中央に進んで行く。緞帳は下りておらず、照明の消えた客席の方に深い闇が広がっている。このオペラの舞台は蝶々さんが囲われている家の奥座敷とその前の中庭で、三幕を通して終始変化しない。真希さんはその奥座敷の廊下に燭台を並べた。宏君もそれに並べて燭台を置く。真希さんはサンダルを脱いで奥座敷に上がり、宏君からタオルケットを受け取って敷いた。そしてその上に立ち、宏君をじっと見つめた。
宏君は悟った。この舞台の上で、つまり蝶々さんの家でおまんこするのだ。しかも、数十分前まで満員の聴衆を酔わせていた、その場所で、その主人公と。宏君はゆっくり洋服を脱いだ。蝶々さんが好色な表情で宏君のストリップを凝視している。
宏君が全裸になった。真希さんもバスローブをはらりと落す。真希さんの裸身が蝋燭の灯に白く浮かび上がる。蝋燭の灯のちらちらする揺らめきが、真希さんの肉体を幻想的、宗教的に美しく見せる。自害した蝶々さんの霊が煩悩を捨て切れず、性の悦びを求めて甦って来たようでもある。二人はタオルケットの中央に歩み寄った。宏君は真希さんを抱き寄せ、むぎゅっとキスした。雇い主の妻で、世界中のオペラ・ファンを酔わせる口を舐め廻す。宏君は突き出された真希さんの舌を激しく吸う。片方の手で真希さんの豊満なおっぱいを揉みしだく。上司の妻、純君と愛ちゃんの母、世界的プリマドンナ、蝶々夫人。その全てが、いま宏君の腕の中にあった。こんな体験は初めてだ。宏君のペニスはぎゅいーん!と伸びて太くなり真希さんのお腹を突いた。
真希さんがしなやかに身体を沈め、タオルケットに仰向けに横たわった。宏君は真希さんの身体に覆いかぶさり、一方の乳房に吸い付き、もう一方の乳首をいじくり廻す。純君と愛ちゃんを育んだ乳首は、大きく勃起し固くなっている。宏君は一方の手の指先で乳首の先端を擦りながら、他方の手で乳房を絞り上げ、その乳首を吸ったり舐めたり噛んだりする。
「あうううーん」真希さんが呻く。
宏君は一方の手を真希さんのおまんこに伸ばす。陰毛に囲まれた割れ目を指でなぞる。次第にその指を谷間に沈めて行く。指が粘膜に触れる。
「うふーん!」と真希さん。
宏君の指が真希さんのおまんこのびらびらを撫で、ついにクリトリスを刺激する。
「あははーん!」真希さんがよがる。
宏君はおっぱいを舐めつつ、さり気なく膣口の濡れ具合も探りながら、クリトリスを圧したり擦ったりする。
「むむむあーん!」真希さんが身体をのけ反らす。
宏君の指は真希さんの蟻の門渡りや肛門も撫で廻す。
「あはーっ!お、おまんこ舐めて!」と真希さん。
宏君は口惜しかった。(そろそろクンニしようかな?)と思った矢先に命令されてしまったからだ。
宏君はおっぱいに別れを告げ、身を沈めて真希さんの股ぐらに位置した。堂々たる薮に囲まれたおまんこに見入る。世界を股に掛けた激しい性行為のせいか、大・小の陰唇は茶褐色をしている。陰唇を開くと、真っ赤な濡れた肉が見えた。さらに陰唇を横に引っ張ると、ぽっかり膣口が開く。純君と愛ちゃんをひり出した穴だ。蝋燭の光では中の襞々までは見えない。宏君が中指を入れると、そこはもうびじゃびじゃに濡れていた。ものはついでなので、宏君は一杯に指を伸ばしておまんこの中の恥丘の裏側を探った。
「あわーん!」Gスポットに触られた真希さんが、感電したように身体を硬直させる。
宏君はGスポット刺激を継続しながら、クリトリスを舐め出す。真希さんがシャワーで使ったボディ・シャンプーの香りがする。
「わはーんっ!いひーっ!」身悶えしながら真希さんがよがる。
宏君は愛液に濡れた指で肛門をいじくる。
「むふふーん!」真希さんが興奮する。
宏君は脱ぎ捨てた上着を引寄せ、ポケットから何か取り出した。それはアナル用の電動バイブであった。宏君はバイブの先端を舐めると、ためらいもなく真希さんのお尻の穴に突っ込んだ。
「ひっ!」思いがけなくお尻に異物を突っ込まれた真希さんが驚く。宏君がバイブのスィッチを入れ、微かなブイーンという音とともにバイブが蠕動を開始する。「おおおお!」真希さんが悦ぶ。
宏君はバイブに肛門を任せ、舌でクリトリス、指で膣を刺激する。
「いーっ!いひーっ!」真希さんがよがる。
宏君は再びGスポット攻撃に出る。
「わひーっ!やって、やって!」真希さんが催促した。
また先に命令されてしまった。宏君は真希さんのセックス奴隷にされているような屈辱感を感じた。
宏君は用意のコンドームを付け、真希さんのおまんこにずぶずぶと突き刺した。
「うむうーっ!」真希さんが満足の呻き声を挙げる。
宏君は蝶々さんのおっぱいを揉みながら蝶々さんを犯した。何百という観客の中の男性たちが妄想して出来なかった欲望を達成している。宏君の虚栄心は満足した。しかし、この世界的プリマドンナの性欲を満足させられるかどうかはまだ未知数だ。宏君は真希さんの肛門に突っ込んだアナル・バイブの振動数を上げた。同時にペニスのぐるぐる廻しのテンポを早めた。
「あうーっ!あわーんっ!」真希さんが悦楽に酔う。そのままイくのかと思ったら違った。真希さんはお尻にアナル・バイブを突っ込んだまま起き上がると、今度は宏君を仰向けに寝せ、そのペニスをおまんこに収めて騎上位で屈伸運動を始めた。
宏君は手を伸ばして真希さんのクリトリスを刺激した。
「あーあーららららーあーあーっ!」真希さんがソプラノで歌い出した。これぞ、知る人ぞ知る真希さんの絶頂の歌声なのだ。真希さんは激しく腰の上下運動をし、自分で自分の乳房を揉みしだいた。「うぎゃーっ!」真希さんがイった。
しばらくして真希さんが身体を弛緩させると、宏君はバイブをオフにして抜き取り、真希さんの身体を優しくタオルケットの上に横たえた。放心状態の真希さんが薄目を開けて見ていると、宏君は勃起したペニスからコンドームを外すところだった。
「宏さん、まさか!」真希さんは狼狽した。抜き身で犯られて宏君の子供を妊るなんてことは出来ない。真希さんは身体を震わせた。
宏君は委細構わず真希さんの身体に乗っかる。
「宏さん、やめて!」真希さんが股を閉ざして懇願する。
不思議なことに、宏君のペニスは真希さんの陰部を素通りし、胸の上にやって来た。
真希さんは(フェラチオで精液を呑ませられるのか?)と思い、心の準備をした。違った。宏君は真希さんの胸の上でペニスをごしごし擦り、ぴゅぴゅぴゅーん!と真希さんの顔面に射精したのだ。
「ひえーっ!」奇襲攻撃であった。無防備な真希さんは宏君の精液を目と云わず鼻と云わず口と云わず、顔中で受け止めざるを得なかった。「な、なんで?」真希さんは宏君が発射した精液を、化粧品のようにして顔や胸に塗りたくり、指についた精液をぺろぺろ舐めながら云った。
宏君は別に説明しなかった。それは、女王様のように彼に命令をし続けた真希さんへの一つの反逆であった。真希さんへの顔射は、プリマドンナと無名の若者の立場を逆転し、対等にする手段だったのだ。
「パチパチパチ!」突如客席から拍手がし、劇場の空間にこだました。宏君はぶったまげた。無人だとばかり思っていたのに、誰かが客席から二人のおまんこを見ていたのだ!宏君が呆れたことに、真希さんはちっとも慌てなかった。(世界的プリマドンナの大スキャンダルになりそうなのに、何故?)宏君には解せなかった。その時、客席の人物が席を立ち、出て行くために懐中電灯を点けたため、身体の輪郭が浮き彫りになった。宏君はその体型に見覚えがあった。
「大伴さん…?」宏君が呟いた。
「そう。ピーピング・トムね」真希さんがくっくっと笑った。
宏君は呆れた。女房と部下をおまんこさせ、それを見物するなんて…。信じられなかった。
「えーっ?」一部始終を聞いた由美ちゃんが目を丸くした。「嘘でしょ?」
「ほんとだよ。あの家族はセックスに関しては凄く異常みたいだ」
「ふーん?」由美ちゃんが何か考えている。
「何だよ?」宏君は妹の考えを読もうとする。
「そのアナル・バイブだけどさ」と由美ちゃん。「捨てて来てないでしょうね?」
「捨てるもんか。石鹸で洗ってティシューにくるんで持って帰ったよ」
「あたしにもやって、大伴真希と同じこと!まだ立つでしょ?」
「マジか?お前が相手ならいつだって立つぜ」
二人は競い合うように着ているものを脱ぎ、真っ裸になった。
「これが大伴真希御用達のペニスなのね?」由美ちゃんが兄の半勃起状態のペニスを撫で廻す。
「よせやい。宮内庁御用達じゃあるまいし」
由美ちゃんが、プリマドンナのおまんこと交わった兄のペニスを舐め出す。
宏君がアナル・バイブを取り上げ、スイッチを入れる。ブイーン!という微かな音が淫靡に反響した。
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