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15. ホクホク性に針路を取れ

「石焼〜き〜いも〜、焼き芋〜っ!」
今どき珍しく、テープの売り声ではなく地声である。地方訛りが、何となく薩摩芋のごつごつした形と、分厚い皮を剥いだ時のホクホクした感じを予感させる。
「お母さん!焼き芋買って!」と幸ちゃんが叫ぶ。
「あいよ!」とおばさんがお財布に飛びついて駆け出す。決断までにナノセカンドの逡巡もない。女性と焼き芋の只ならぬ関係のなせる業(わざ)である。

焼き芋屋は見慣れぬ顔であった。というよりも、下宿周辺は往来の激しい道路から離れているので、ほとんど物売りが入って来ないのだ。焼き芋屋はちょうど下宿の門前に停まっていた。売り声がテープでなかったのも珍しいが、軽自動車でなく自転車で引くタイプであるのも珍しい。30年前からワープして来た感じだ。
「お芋さん、六個下さいな」とおばさん。
「へい。ありがとさん」50に手が届くか届かないかという焼き芋屋で、予期していたような爺さんではなかった。
「焼き芋屋さん、ときどき来てね。また買うから」とおばさん。
「んじゃ奥さん、毎日くっからよ。奥さん、出て来るまで待ってっから」と焼き芋屋。
おばさんは焼き芋屋の訛りに聞き覚えがあるような気がした。
「はい、六個」と焼き芋屋が芋の入った新聞紙の袋を手渡す。ほかほかと熱い。
「いくら?あ、そ。じゃ、これでお釣り頂戴」
「へい。ありあたんした!」

おばさんは家に駆け戻り、階段の下から二階の学生・緑さんに声をかけた。
「緑さん。焼き芋買ったの。降りてらっしゃーい!」
「うわっ!はーい!」と緑さんの声。

おばさんと幸ちゃん、緑さんは、冷めるのを待ち切れずに熱い芋を手の中で転がしながら、少しずつ皮を剥いて食べ始める。
「奥さーん!済んません!」と玄関で声がする。焼き芋屋の声だ。おばさんは(お釣りが間違ってたのかしら?)と思いながら、出て行く。
「奥さん。悪(わり)ぃけんどよー、トイレ貸してくんねが?ほんと、えれえ済まねが」と焼き芋屋。
おばさんは本当は見知らぬ行商人や通行人を家に上げたくなかった。彼らが泥棒になって夜中に舞い戻って来ないとは限らないからだ。しかし、焼き芋屋のおじさんの表情は緊急事態そのものに見えた。門前でうんこされても困るので、おばさんはトイレを貸すことにした。
「済んません、済んません」焼き芋屋は恐縮して身を屈めるようにしながら、おばさんが指差す方へ廊下を歩いて行く。茶の間では幸ちゃんと緑さんが焼き芋屋の通過を見守っている。

幸ちゃんが焼き芋を食べながら、ふと緑さんの顔を見て驚いた。緑さんの顔は硬直していた。
「緑さん、どうしたの?」と幸ちゃん。
廊下の奥で、焼き芋屋が手を洗う音がして、戻って来る足音がする。緑さんは焼き芋をちゃぶ台に置き、すっくと立って、くるりと廊下を振り向く。
「奥さん、えらい助かったっぺよ。こんだ、芋うんとサービスすっから。ほんじゃ」と焼き芋屋。
「父ちゃん!」緑さんが叫んだ。
おばさんも幸ちゃんも焼き芋屋も、みんな凍りついた。なに!?

焼き芋屋はまじまじと緑さんの顔を見つめた。
「父ちゃん、あだし緑だべ!」緑さんが苦労して洗い流した茨城弁が戻って来てしまった。
しかし、焼き芋屋は首を横に振った。
「似でっけど、おらえの娘は豚みでな鼻で、あんたみだぐ美人じゃねど」
「整形したんだっぺよ。ほら、これならどだ?」緑さんは鼻を指で押し上げて見せた。

焼き芋屋はくずおれるように廊下にへたり込んだ。
「おめ、なんでここさいんだ(お前、何でここにいるの)?」と焼き芋屋。
「おらよー、この家さ下宿してんだへよ」
「緑さん!」とおばさん。「この方、ほんとにお父さんなの?」
「はい。10年前に母と離婚して以来行方不明だったんです。私の今の父は継父なんです」と緑さん。
「それじゃ、お父さん、そんな廊下じゃなくて、こちらへどうぞ。さ」とおばさん。
「いや。もうしづれいすっから。おら、仕事中だしよ」とお父さん。
「そんな!久し振りの父娘対面だっていうのに」とおばさん。
「父ちゃん、いま焼き芋屋げ?」と緑さん。
「んだ」と焼き芋屋。
「いがった。あだし、父ちゃんがどっかでホームレスんなってねべがって、心配してたんだ。わあーん!」緑さんが泣き出す。幸ちゃんは焼き芋を口に運ぶ途中でストップ・モーションになったままである。

「緑、済まね。心配かげで。父ちゃん、また来っからよ。こんだ、ゆっくり話しすっぺ。な?」とお父さん。
「父ちゃんの連絡先教えで。もう来てくんねど、次いづ会えっかわがんねがら」と緑さん。
「電話なんかねえど。住所だげだど」お父さんはおばさんが渡したメモ用紙に住所を書いた。
「あの」とおばさん。「ほんとに毎日来て下さいね。買いますから」
「ありがとございます。娘ばよろしぐお願いします」お父さんは涙を拭きつつ去った。緑さんが玄関でお父さんの後ろ姿を見送った。

もう焼き芋どころではなかった。おばさんと幸ちゃんは、緑さんに実のお父さんが行方不明になった訳を聞いた。お父さんの家は代々の造り酒屋だった。ある時、酒造りのプロセスにトラブルが起ったりして経営が左前になった。立て直し資金を融通してくれる人間がいたが、その甥を番頭に据えることが条件だった。その番頭は切れ者で商才もあり、いつの間にか社長であるお父さんと番頭の地位が逆転しそうになった。折りも折り、その番頭と緑さんの母親の密通が発覚した。普通ならお父さんが「出てけーっ!」と怒鳴るところだが、実は地所も建物も全て借金のカタで、出て行くとしたらお父さんしかいなかった。

「まあ、ひどい話!」とおばさん。「で、緑さんのお母さんはその番頭と再婚したわけ?」
「ええ。私は父について行きたかったんですけど、弟二人の面倒を見るために残りました」
「大変だったのねえ」とおばさん。

次の日、緑さんはお父さんの住所を訪ねた。お父さんは焼き芋を売りに出て留守の時間だったが、目的は父の住まいを見ることだった。緑さんは涙を浮かべて帰って来た。それほどひどかったのだ。軽自動車どころか、売り声を録音するテープ・レコーダーも買える筈はなかった。

緑さんのお父さんは、雨の日以外毎日現われた。おばさんは焼き芋を沢山買った。緑さんがいる時は、お父さんに緑さんの部屋でお茶を飲むように勧めた。父娘に積もる話をさせようという心遣いだった。お父さんは10分か15分いて、御礼を云ってまた焼き芋売りに戻って行った。

「お母ちゃん!」と茂君。「なんか最近、この家臭くない?」
「そうかねえ?」とおばさん。
「あたし、感じないけどね」と幸ちゃん。
「変だなあ。おれだけ感じるのかなあ?」
茂君の背後で、おばさんと幸ちゃんがベロを出した。

ある雨の日、緑さんのお父さんが下宿にやって来た。仕事は休みで、銭湯に行き、仕事着ではなく一張羅を来たお父さんはなかなかの男前だった。お父さんは羊羹を一本、おばさんに差し出した。
「いづも、お茶ばごっそになりやして…」とお父さん。
「まあ、そんな心配しないで下さいな。さ、緑さんの部屋へどうぞ」とおばさん。

緑さんとお父さんはしんみりと話し合っていた。
「どだった、この10年?幸せだったか?」とお父さん。
「実の父がいねくて幸せのはずねべ」と緑さん。
「あの番頭め、おっと、今は社長だっぺな、あのやろ、どだった?」
「よぐも悪ぐもね。普通だ」
「あのやろ、おめにちょっかい出さながったが?」
「ちょっかいって?」
「おめもごじゃっぺだな。おまんこされながったがって聞いてんだっぺよ」とお父さん。
「そんな!時々触られたけどよー、そごまではねがったど」と緑さん。
「んなら、えがった」

「父ちゃん、あだし、婚約してんだど!」と緑さん。
「婚約?おめ、もうその歳でが!」とお父さん。
「んだ。ある会社の重役さんでよ、あだしのおまんこ気に入って、離したぐねって」
「後妻か?おれくれえの歳か?」
「んだ」
「なんで、そのやろ、おめのおまんこ知ってんだ?」
「おらよー、この下宿でフリーセックス楽しんでんだ」
「フリーセックス?」お父さんはたまげる。
「その重役さんの娘さんとここの娘さんが親友なんだ。だからその重役さんとも知りあえだわげ」

「婚約してフリーセックスしたらよぐねべ」とお父さん。
「大学出て結婚するまではいいって、重役さん云ってんだ。だから、オッケー」と緑さん。
「おめ、別(わが)れた時は10歳だったのに、もう婚約だのフリーセックスだの云う歳になったのか」とお父さんは涙ぐむ。
「んだ。もう大人だ。ほれ、おっぱいもこんなえがい(でかい)んだど」緑さんはお父さんの手を取っておっぱいに触らせる。
「緑!」
「父ちゃん。重役さんは娘さんとやってんだ、父娘で」
「なんだど?」
「父ちゃん、おらだちもやっぺ。父ちゃん、ずっとやってねえべ」と緑さんがお父さんにすり寄る。

「み、緑!」お父さんはうろたえる。
「何も考えんでね。やっぺ、おまんこすっぺ。な?」緑さんはお父さんの手をスカートの中へ導く。
「お、おめ!」とお父さん。
緑さんはズボンの上からお父さんの股間に触る。そこは完全に勃起していた。緑さんはTシャツを脱ぐ。ブラはしていない。ぷりんぷりんとおっぱいが弾んで飛び出す。お父さんはしばらく美しいおっぱいに見とれていたが、矢も盾もたまらず娘に飛びかかり、娘のおっぱいに吸い付く。緑さんはゆっくり身を床に横たえる。
「緑。ほんとにえのげ(いいのか)?婚約解消されねが?」お父さんは娘の身を案じる。
「あっちがやってて、こっちは悪(わり)ぃってあんめよ。さ、やっぺ!」と緑さん。
「んなら、やっか」とお父さん。お父さんは緑さんが渡してくれたコンドームを着けた。

お父さんは娘にのしかかった。もう緑さんのおまんこは潤っていたから、お父さんはスカートを脱がす間も惜しんで、そのままおまんこを開始した。
「あうーっ!父ちゃん!」
お父さんは娘の口に吸い付く。
「うぐごぐむむむー」緑さんは興奮する。
落魄したお父さんにとって、ソープだの何だのに行くお金は無かったから、これは久し振りのおまんこだった。それも可愛い娘とのおまんこだ。何という親孝行な娘なのだ。お父さんは性の快感と、肉親の愛情と両方によって恍惚となった。
「緑!悪(わり)ぃ!もう駄目だへ!」久し振りの刺激で、お父さんは長くもたなかった。
「えがら(いいから)出しな、父ちゃん!」
「むむっ!むーっ!ああああ!」お父さんがイった。
「父ちゃん!父ちゃん!」

しばらく休憩した後、緑さんはお父さんにフェラチオをした。お父さんはまた元気になり、娘と抱き合った。今度はお父さんは娘の身体のあちこちを堪能しながら刺激し、緑さんを燃え上がらせ、再度おまんこした。二人は同時にイった。

後日、緑さんは早苗ちゃんのお父さんに全てを話した。早苗ちゃんのお父さんは金銭的助力を申し出たが、緑さんのお父さんはそれを固辞した。で、早苗ちゃんのお父さんは方々に電話をかけまくり、いい就職口を見つけて緑さんのお父さんに勧めた。今度は緑さんのお父さんも感謝しつつ、それを受け、いまはサラリーマンとなって寮住まいで身綺麗に暮らしている。

焼き芋中毒になっていたおばさんと幸ちゃんは、その後禁断症状に悩まされた。
「最近、この家の空気、良くなったみたい」と茂君が云った。




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