[banner]


14. 節穴伝説

ある晴れた日曜日、茂君と竜子が表の塀のペンキ塗りを始めた。花岡の手も借りたかったのだが、彼には映画のエキストラの仕事があった。花岡と竜子は贖罪のために、この下宿の雑役夫として働かざるを得ない運命ではあったが、彼らも食って行かなくてはならないので、茂君も彼らの本業を無視してまで只働きを命ずることは出来なかった。【『罪と罰』参照】

塀は下宿の表だけで、周囲は生け垣だし、ボリビアの伯父さんが買い占めた空き地の周りは単に金網の柵があるだけだったから、大した面積ではない。もともと、その塀は焦げ茶色に塗られていた。おばさんは今度は真っ黒に塗る決意をして、茂君達に黒のペンキを買って来させた。「粋な黒塀、見越しの松に…」という歌の文句があったが、この家には松はなく、唯一の大木は桃の木である。「見越しの桃」では歌にならない。

茂君と竜子は古着、古靴、古軍手に古帽子でペンキ塗りをしていた。竜子が野球帽をかぶった姿は若々しくセクシーに見えた。茂君は竜子とやりたくなった。
「竜子さん、やりたいよ」と茂君。
「まだ、ペンキ塗り始めたばかりじゃない。待ちなさい」と竜子。
「待てないよ。今日の竜子さんセクシーなんだもん」
そう云われると竜子も悪い気はしない。
「でも、このベトベトの服脱いで、おまんこして、又この服着るなんて気持ち悪い。駄目よ」

茂君は考えた。塀の蔭でパパッとおまんこすることは出来る。家の者には見られるかも知れないが、それは問題ない。しかし、茂君はどうせなら白昼堂々、公然と路上でセックスしてみたかった。
「竜子さんのお尻だけ出して、ぼくが後から接触するってのどうかな?誰か来たら、二人ともペンキ塗りして見せる」と茂君。
「そんな、二人でくっついてペンキ塗りって見たことないわ。誰にだっておかしく見えるわよ」と竜子。
「この通りって、そう人は来ないよ」
「ご近所の目もあるじゃない。110番されたら一発で逮捕よ。公序良俗に反するとか云って」

「困ったなあ」茂君は勃起したペニスをかかえておろおろする。
「フェラチオならして上げられるわよ」と竜子。
「え?ここで?」と茂君。背後からおまんこするより、もっと目立つではないか。
「ここに節穴があるじゃない?ここにあんたのお珍々入れて、あたしが塀の内側からしゃぶるの。どう?」
「グッド・アイデア!いいねえ!」と茂君。道路でフェラチオして貰うというのは、かなり刺激的だ。
「そういう商売あるみたいね?」と竜子。
「あるある。写真見たことある。穴に差し込まれたペニスを美女が舐める商売」
「どうせ、顔見えないんだから美女でなくてもいいみたいだけどね」
「その通り。本当は婆さんがやってるんじゃないの?」
「じゃ、あたし裏へ廻る」竜子が塀の内側へ行く。

茂君はきょろきょろ通りの両側を見て通行人が来ないことを確認し、節穴の前に立つ。竜子が云った節穴はちょうど腰の高さで、直径4cmぐらい、問題なくペニスが差し込めそうだ。ジッパーを下ろしてペニスを引っ張り出す。ほどなくして、節穴の向こうに竜子の目玉が現われ、「いいわよ」と云った。茂君はペニスを節穴に突っ込み、刷毛を持った手をゆったりと左右に動かす。ペニスが竜子の口に含まれた。温かく、濡れたものに包まれ、ペニスはさらにグイーン!と伸びる。竜子が舌でペニスをぺろぺろしながら、ゆっくり顔を前後させる。

茂君の興奮は尋常でなかった。公道においてフェラチオして貰っているのだ。誰にも竜子の姿は見えないとはいえ、やって貰っている事実に変わりはない。(見ろ!世間の奴等!おれは公序良俗に反してるぞ!公然猥褻物陳列罪だぞ!)竜子はフェラチオのベテランだから、テクニックは素晴らしい。唾液の量も適切だし、舌で舐めるタイミングとピストン運動の配分が実にいい。茂君は出鱈目に刷毛を振りながら、上半身を悶えさせていた。

「大変ですね」突如背後で声がした。
茂君がぶったまげて振り返ると、ジョギング中の30代の男性だった。スニーカーで音もなくとっとことっとこ来られたので気付かなかったのだ。竜子も気配を感じて口の動きをストップさせる。
「いえ、まあ。慣れてますので」と茂君がもごもご云う。
「頑張って下さい」男性は走り去った。

「ああ、びっくりした!」茂君はペニスの感覚に集中する。竜子がまた舐め始め、ピストン運動を再開する。

「何してるの、ああた!」と声がした。茂君が振り返ると、子犬を散歩させている中年婦人だった。
「何って、ペンキ塗ってんですけど」茂君がおたおたする。(バレたんだろうか?)
「同じとこばっかり塗ってどうすんの?変な人ねえ」婦人は怪訝な顔をし、子犬は塀の裏に人の気配を察して、節穴を見上げながらキャンキャン吠える。茂君はまとわりつく子犬を避けたいが、動くと剥き出しのペニスを婦人に見せることになるので、相変わらず塀に向かって立ち、刷毛を動かす。
「ほら、ずっと同じとこばかり塗ってる。怪しいわ」と婦人。
「怪しくなんかありません。ぼく、ここの家のもんです」と茂君。
すると、竜子が口を抑えたくぐもった声で「茂ーっ!」と声を掛けて来た。「まだー?」
「ママ、もうすぐでーす!」茂君が応じる。
婦人は、納得して吠える犬を引っ張って去って行った。

「あんた、お珍々柔らかくなっちゃったわよ」と竜子が裏で云う。
「竜子さん、固くして。もう、早くイっちゃいたい!」と茂君。
竜子がペニスの裏側を舐め上げ、亀頭をぺろぺろする。ペニスはまた固くなった。茂君は公道でのフェラチオを満喫しようとする。

「ご精が出ますな」と声がした。いつの間にか70歳近い老人が立っていた。浴衣を着て散歩中という感じの姿である。
茂君はうんざりした。普段は人っ子一人通らないような小路が、今日に限って渋谷駅前交差点のような混雑ではないか。
「こんちわ」茂君が挨拶する。
「そんなに塀にくっついちゃ、服が汚れませんかな?」と老人が云った。丸顔に皺を一杯作った、気さくな感じの老人である。
「もう汚れてますから、いいんです。それにですね」茂君は自棄っぱちで次のようにひそひそ声で云った。「実はぼく、この節穴にお珍々突っ込んでるんです。気持いいんですわ、これが」
「なに?節穴にお珍々を?」老人が目を丸くする。
「ええ。こうして話していても気持ちよくて、ああああ、うむむ、おおおおっ!」茂君がイった。塀の裏で竜子が茂君の精液を飲み込み、ペニスを搾りながら全てを飲み干した。
茂君が静かにペニスを引き抜く。老人は屈んで塀に顔をつけるようにして見守り、若者の果てたペニスを見て、それが射精後であることを悟った。
「本当ですかな?」と老人。老人は節穴に目を当てて覗く。竜子は身体をずらしているので見えない。
「本当です。実は、この塀は重要文化財に指定されることに決まったので、それでこうしてペンキを塗ってお化粧をしてるわけなんです」と茂君。
「はああ!重要文化財!」老人は納得した。

「わしも試していいかの?」老人が云った。「暫く立ってないのだが…」
「ここへ入れれば立ちますよ。保証します」と茂君。
老人は浴衣の裾を広げ、ふんどしから年老いたペニスを引っ張り出すと、塀の節穴に突っ込んだ。老人のペニスは何か温かく濡れたものに包まれ、40代の時のように勃起し始めた。
「おお、立った。気持ええ。ううむ、こりゃええ。おおお!」老人は興奮した。茂君は老人の心臓発作とか脳溢血を心配した。自分の家の塀にお珍々を突っ込んだまま死なれては困る。老人があへあへ云いながらよがっている間に、さらに数人の野次馬が集まっていた。
「あうううむ!わあああっ!」老人がイった。竜子はこの老人のペニスも綺麗に舐め尽くした。老人は久方ぶりのセックス体験に感激して茂君に千円札を渡し、
「こりゃ、素晴らしい節穴じゃ。わしゃ、これでいつでも冥土に行ける」と感謝した。塀に顔をつけたせいで、老人の鼻が黒くなっている。
「あはは!」と茂君が笑うと、老人が茂君の鼻を指差して云った、
「あんたの鼻も真っ黒だよ。ははは!」と笑った。

野次馬の中で、老人が塀からペニスを引き抜くところを見た者がいた。その男もジッパーを下ろしてペニスを引っ張り出すと節穴に突っ込んだ。この男が興奮している間に、茂君は下宿の門を閉め、誰も中を覗けないようにした。男は「うおお!いい気持!あああっ!」と叫んでイった。いつの間にか、節穴の前には行列が出来ていた。男たちは次々に鼻を黒くして去って行く。

しばらくすると、節穴に突っ込んだペニスに何も起こらなくなった。ある男は節穴に目を当てて向こうを覗いたが、勿論何も見えない。事情を察した茂君は、
「申し訳ありません。間もなく文化財保護委員会が検査に来ます。マスコミも取材に来るはずです。それまでにペンキ塗りを終えたいので、今日はお引き取り下さい」と群衆に云った。並んでいた男たちはぶつぶつ云いながらも引き上げた。TVや新聞に自分の顔を出されたくないからだ。

人がいなくなったところで、茂君は門を開け塀の裏側へ駆け寄った。竜子が消耗し切って倒れていた。
「竜子さん!竜子さん!大丈夫?」と茂君。
「だいらぶあないわお」(大丈夫じゃないわよ)と竜子。もう顎がくたびれて満足に話せないのだ。
茂君はくしゃくしゃになった千円札の束を竜子に渡した。
「あにこえ?」(何これ?)と竜子。
「帽子を脱いで、最初の老人の千円札を入れておいたら、みんなお金を置いて行ったんだ。一万円札も混じってる。みんな竜子さんのものだ」と茂君。
「ああし、えいえきのびうぎえきもいわうい」(あたし、精液飲みすぎて気持悪い)と竜子。
「何も全部飲まなくても!」と茂君。
「えも、のおにおびおんでくうかあふせえないろろ」(でも、喉に飛び込んで来るから防げないのよ)と竜子。
茂君は竜子が憐れになって、しっかと彼女の身体を抱き締めた。こんな素直な女性もいない。茂君は竜子をかつぐようにしながら、彼女を自分の部屋に入れて介抱した。当然、おまんこもした。

その後数週間、通行人が塀の節穴にペニスを突っ込む事態が頻繁に見られた。下宿の人間は慣れてしまったが、来客や訪問販売の女性たちは節穴から突き出された抜き身のペニスに驚き、「きゃーっ!」と悲鳴を上げた。

ジミーとサブリナは突き出ているペニスに蜂蜜を塗って遊んだ。男たちは「おっ、これこそ快感への序曲!」と期待するのだが、蜂だの蟻だのが群がって腫れ上がるのが常であった。いつしか節穴伝説は消滅して行った。




前頁目次次頁


Copyright © 2004 Satyl.net
E-mail: webmaster@satyl.net