[banner]

26. 同性愛

「あんた」志乃が梅太郎に云った。「おれは別の部屋で寝るごどにすっけど、構わねえべな?」
「何だと?」梅太郎が驚く。
「あんた、もうおれの身体に興味ねえみでださげ、一緒に寝る必要ねえど思ってよ」
「おめ(お前)は多代ば生んで身体弱ったべ。もう妊娠させらんねさげな」
「へえ?おれのため思ってでがんすか?」と志乃。
「そうよ!」梅太郎がふんぞり返る。
「おれのため思うならぺっちょやってけらっしゃい。おれ、今やりで盛りなんだがら」志乃が顔を赤らめながら云う。
「出来ねな。おめ(お前)を殺したぐねがらな」
「ずほ(嘘)!浮気する口実だべ!」
「なに、浮気?どこに証拠がある?」
「38歳で立だねぐなる男なんて聞いだごとねえだ。甲賀屋さんだって三河屋さんだって、40過ぎて子供作ってるだじぇ。どっかでぺっちょしてるに違えねえ」
「邪推だ!」
「まさが女中の一人ではあんめな?」
「そげな!奉公人に手え出すか!」その実、梅太郎はどきっとした。おまんは幼いが女中の下働きの一人である。
「あんたが浮気すんならおれもやる。ええでがんすな?」と志乃。
「駄目だ!許さね!」
「んだら、おれとやってけろ!」
「出来(でぎ)ね!」
「おれも浮気するす。文句云わさね」
「妊娠したら離縁だ。ええな?」
志乃は悲しかった。浮気したいわけではなかったからだ。「浮気してもいいが妊娠するな」という言葉は、もう夫の心が自分から完全に遠ざかっている証拠だった。二度と夫に抱かれることはないのだ。志乃は泣いた。

志乃は夫の浮気相手が誰か知りたかった。今度は別の興信所に頼んで調査させた。又も結果は同じ。夫が商売以外で寄り道する家はなかった。となると、家の誰かか?志乃はそれとなく、家の中の動向に気を配った。梅太郎は時々松の部屋へ出掛けた。それは商いについての相談だろうから問題ない。気になったのは、梅太郎の書斎に頻繁に赤い布が下がることだった。これも商いの研究らしい。しかし、志乃の目には梅太郎がそれほど商売熱心には見えなかった。

ある日、赤い布が下がっている書斎の前で、志乃はばったりおまんに出くわした。おまんは書斎から出て来たところだった。
「おまん!そごは誰さも入っちゃいげねえだど!」志乃はきつい調子で云った。
「へえ。旦那様にお茶ば持って参(めえ)ったでがんす」おまんは志乃の目を避けるように足早に去った。
志乃は不思議に思った。おまんはいつもは人の目を見てハッキリものを云う子供だった。今のおまんは違っていた。とつおいつ考えながらそこに佇んでいると、ガラッと戸が開いて夫が出て来た。
「あんた!」と志乃。
「何だ、何か用が?」と梅太郎。
「いえ。別に」おまんのことを聞きたかったが、何と聞いていいか分らなかった。
「おれは忙すい」そう云うと、梅太郎は赤い布を外して去って行った。

志乃は書斎に入ってみた。別に気になるようなものはなかった。小机の前に座布団が一枚あるだけで、机の上には何もない。志乃は部屋を出て戸を閉めかけてハッとした。おまんが運んで来たという湯呑みはどこにもなかった。おまんも手にお盆など持っていなかった。おまんは嘘をついたのだ。

志乃はもう一度書斎に入り、後ろ手に戸を閉めた。(何かある)そう思った。部屋の隅のごみ箱が目に止まった。志乃はごみ箱の前にしゃがみ、中を覗き込んだ。懐紙が数枚入っている。一番上の懐紙を取り出した。濡れている。匂いを嗅いだ。精液の臭いだった!まだ乾いていないということは、さっきおまんとやったばかりの精液だ。奉公人、それも自分の娘と同い年の子供に手を出すとは!志乃は情けなかった。ごみ箱の中は懐紙ばかりで、全てに乾いて茶色になった精液がついていた。昨日や今日おまんとやり始めたわけではないのだ。

その夜、志乃は寝室におまんを呼んだ。もう夫とは別の部屋である。
「おまん」と志乃。「おれはおめ(お前)を信用してる。おめ(お前)は嘘つがね正直なわらし(子供)だど思ってる。んだがら、正直にかだれ(話せ)。ええな?」
おまんは何か分らなかったが、本能的に良くない話だと思った。
「おめ、いづがら旦那様に姦(や)られでるんだ?」志乃が聞いた。
おまんは息を飲み、身体を硬直させた。ついに露見したのだ。旦那様の云いなりになってぺっちょの相手をして来たのは、若奥様を裏切る行為だった。
「申しわげねっす!許してけらっしゃい。もう死んでもやんねっす!」おまんは畳に両手を突いた。
「おまん。おめ(お前)をごしゃいでる(怒ってる)んでねんだ。安心すろ。旦那様がおめ(お前)を脅がしてやってんのはわがってるだがら」
「んでも、若奥様に済まねぐて。ずっと心の中で謝ってたでがんす」
「いづがらだ?」
「もう、もうずっと前(めえ)がらだっす」
「やっぱりな。おれが寂しがったのも分るべ」と志乃。
「済まねっす」おまんが身体を小さくする。
「んでも、おめ(お前)が慰めでくれだで嬉しかっただ」
「そげな…。何でもねっす」おまんは若奥様に叱られなくてほっとしていた。

「おまん、着物脱げ」志乃が云った。
「へ?おれ、けつぺだ(お尻)叩かれるでがんすか?」おまんが緊張する。
「あはは」志乃が微かに笑った。「んでね。旦那様がおめ(お前)に悪いごとしたさげ、おれが詫びるだ」
「?」おまんには意味が分らなかった。が、とにかく云われた通り着ているものを全部脱いだ。
「こごさ寝ろ」志乃が布団の上に誘う。
おまんが仰向けに横たわると、志乃はおまんの両脚を開いて股の間に顔を近づけた。
「若奥様!駄目だ!駄目だよ、そげなごど!」志乃の意図を察知したおまんが止める。
「旦那様は舐めでくれっが?」と志乃。
おまんが微かに首を横に振る。
「んだら、これがおれの詫びだ」志乃はおまんの幼い割れ目を舐め出す。
「若奥様!」おまんが恐縮して身をよじる。
「ちょど(じっと)してろ!」志乃がぴしゃりと云う。
志乃はおまんの割れ目を開き、桜色の粘膜をあらわにした。志乃は微笑んだ。自分にもこんな時期があったのだ。志乃はおまんと同い年の多代のことも思った。多代もおまんも同じ人間なのに、おまんだけ、たった12歳の幼い肉体を蹂躙されているのだ。大店の主人が奉公人に対してすべきことではなかった。表に出せない一家の恥である。いくらおまんに詫びても足りるものではない。

志乃は誠意を込めておまんのおまんこを舐めた。陰核を舐め、膣口も舐めた。
「ううう、若奥様!」とおまん。
「黙ってええ気持(きもぢ)になれ、おまん!」志乃が云う。
「待ってけらっしゃい!ちぇっとだげ!」おまんが云うと、起き上がって志乃の寝間着の帯を解き、志乃も全裸にした。
「何すっだ?」志乃が面食らっている。
おまんは志乃を仰向けに布団の上に横たえ、自分は志乃の身体の上に前後逆になって乗っかった。今で云う69であるが、当時はまだこの体位は一般的ではなく、当然おまんの知識にもなかった。おまんの創意工夫であった。
「一緒に舐めるんだっす」おまんが云い、志乃の陰毛をかき分けて割れ目を見つけ、舐め出した。
志乃の真上におまんの割れ目がある。志乃は感心した。女同士、こんなことも出来るのだ。志乃はおまんの尻に両手を廻して押し下げ、舐めやすいように近づけた。
お互いに相手の性器を舐め、快楽を共にする。主人も奉公人もない、平等な行為である。そして、二人はそれぞれ不幸なことでも共通していた。二人は競争するように相手に奉仕し、快感を与えようとした。ぺろぺろ、ぺちゃぺちゃ、ちゅうちゅう、さまざまな音が飛び交った。二人はお互いの膣に指を突っ込み、男根のように動かした。女同士だから、どこをどうして欲しいかは分っている。二人の快感は爆発しそうに高まって行った。
「ぶぶぐう!んぼぼぼ!」よがり声と舐める音が入り交じる。
「ばがが、べべべがが!」
二人の息づかいが早く荒くなる。二人はお互いの絶頂が近いことを感じた。二人の指と舌の動きが最速になる。
「ぶぶぎゃあ!」
「あががぶぶ!」
どれがどちらの声とも分らぬくぐもった呻きと共に、二人がイった。

志乃とおまんは顔を並べて布団の上に横たわっていた。まだ、絶頂の余韻が残っている。おまんはおずおずと手を伸ばし、志乃のおっぱいに触れた。豊かに実った乳房。しかし、亭主は見向きもしない寂しいおっぱいであった。
「話に聞いたごどはあったげんと、これが女同士のぺっちょなんだな」志乃が独りごちた。
「なんでがんす?」おまんが聞く。
「寂しいへな(女)同士が慰め合うごどがあるって、聞いてただ。んでも、どげなもんか知らねがった」
「おれ、いづでも若奥様お慰めするす。呼んでけらっしゃい」とおまん。
「ありがと。おめはいいオナンコ(女の子)だな」志乃がおまんの髪の毛を撫でる。
「そげなごどねっす」おまんが照れる。
志乃はそのおまんの口に吸い付く。
「うっぷ」おまんがびっくりする。
志乃はおまんの唇を舌でかきわけ、おまんの舌を舐める。おまんにとっても志乃にとっても初めての女同士の接吻であった。それは男女の接吻のようではなかったが、何かもっと淫靡でいやらしい興奮をもたらした。二人は女同士で出来る全てを味わっていた。




前頁目次次頁


Copyright © 2012 Satyl.net
E-mail: webmaster@satyl.net