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47. ぺっちょの先生

いよいよ久蔵の息子・清蔵(16歳)がやって来る日となった。松が多賀屋の女たちだけの会議を開いた。
「こんにゃ(今夜)は清どんの筆下ろしの日だ」と松。
「筆下ろし?」と多代。
「何でがんす?」とおまん。
「筆つうもんは買って来てすぐ使えるもんではねえ」と松。「ぬるま湯でほぐさねばなんね。最初には手続きが要るつうこんだ」
「清どんのでがくて固(かて)え筆ばほぐすのが。あはは!」と多代。
「多代、おまん。おめらには悪いげんと、筆下ろしは大人(おどな)に任(まが)せるだ」
「そげなーっ!ずるかす(ずるい)!」と多代。「おれだちにもする権利あるべ」
「あのな、多代」と松。「童貞の男はどごに穴ぽこがあるがも分(わが)らねし、『三擦り半』つって、入れだと思ったらすぐ“ずろ”(精液)出してしまうのもいる。相手すんのは楽じゃねんだ」
「穴ぽこなら、おれにだって教えられるっす」と多代。
「おれとやった時、卓どんは初めてだったす」とおまん。
「穴ぽこの場所みでなそげなじょさね(簡単な)ごどばがりではねんだ」と松。「清どんに、自分だけええ気持(きもぢ)になってすうぐ“ずろ”(精液)出しちまうよな男になってほしくねえ。女ばよがらせるつう男の務めば叩き込まねばなんね」
「しぇんしぇ(先生)みでだなっす」とおまん。
「んだ。ぺっちょのしぇんしぇいだ」
「あははは!」多代が笑い、志乃もおまんもつられて笑い出した。

「しぇんしぇいは大人(おどな)の仕事だ。年下のおめだ(お前ら)には務まんね」と松。
「おれにも出来ると思うだ。やらせてけらっしゃい」と多代。
「おめ(お前)、おっ母さまに逆らうでね。清どんはおっ母さまに任(まが)せるだ」と志乃。
「志乃。おれはおめ(お前)に頼むつもりだなだ」と松。
「おっ母さま!ほだな…」志乃が戸惑う。
「おまん、多代。よぐ聞げ」と松。「筆下ろしは男の一生の思い出になるぺっちょなだ。おれは、清どんに本当に女らしい女とやって貰いでえ。おれみでな年寄りでもねぐ、おめだ(お前ら)みでに乳(ちぢ)もねえわらしでもねぐ」
「んでも、ぺっちょに乳(ちぢ)は関係ねえべっす」まだ多代が抵抗する。
「おめだ(お前ら)は明日からいぐらでもやって貰える。たった一回(いっけえ)、こんにゃ(今夜)だげ我慢するだ」
「おっ母さま」と志乃。「おれが相手すっど、清どんには避妊具使って貰わねばなんねっす」最近、梅太郎はどっさり避妊具(コンドーム)を購入していた。久蔵のために舶来の特大サイズも用意されていた。「初めての日ぐれえ抜き身でやらせで上げでえと思うっす。おっ母さまならもう避妊具要らねべがら、やっぱりおっ母さまが…」
「おれもおまんも避妊具要らねでがんす」と多代。
「おめ(お前)はすっこんでろ!」志乃が一喝する。多代はしゅんとなり、おまんがくすくす笑う。

「議論してても始まらねえだな」と松。「おめとおれで籤引きすっか」
「籤引き?」志乃が呆れる。童貞の相手を籤引きで決めるのか!
「こごさ(ここに)マッチがある。この二本のうぢ一本をこうやって折って、短くすっだ。長い方を選んだ者(もん)が、今夜の清どんの相手だ。ええが?」
「へえ」志乃が不承不承頷く。
「んだば、おめがら引け」二本のマッチ棒の根元を指先で隠し、松が志乃に差し出す。と、一本のマッチがぽろっと落ちてしまった。「おっとっと!いげね。興奮して手元が狂っちまった」松が笑う。
志乃がマッチ棒を拾って松に渡す。松は二本のマッチ棒の位置を入れ替えたりして、どっちがどっちか分らなくする。 「ほれ、志乃。引いてけろ」再度、松がマッチ棒を差し出す。
志乃は手を伸ばして、右のマッチ棒を抜こうとするが、その手を左のマッチ棒の方に移し、ためらった末、また右のマッチ棒に戻ってそれを引く。長い方だった。一同、緊張して止めていた息を吐き出した。
「志乃。よろしぐ頼むど」と松。
「へえ。んだば、これがら湯(風呂)さ入(へえ)りますさげ、ぶじょほ(失礼)すますだ」志乃が出て行く。
松が残りの一本のマッチをマッチ箱にしまいかける。
「おばっちゃま!それも長(なげ)えでねが!」多代が驚く。おまんも身を乗り出して松の手元を見つめる。
松はにんまり笑う。松は志乃がマッチ棒を拾っている隙に長い棒をもう一本加え、受け取った短いマッチ棒は手の平の中に隠していたのだ。志乃に見せた二本のマッチ棒は両方とも長く、どっちを選んでも志乃が当たるようになっていたのである。
「おばっちゃま、いかさま(インチキ)でねが!」と多代。
「志乃に云うでねえど。さ、会議は終りだ。おめらもあっちゃ行げ」

その夕刻、久蔵に連れられて清蔵(16歳)がやって来た。奥座敷の床の間を背にして松、左に梅太郎、志乃、多代、卓二、おまんが並び、右に久蔵と清蔵。清蔵はがっしりとした体格、長い顔に男性的なげじげじ眉と甘い目という珍しい顔をした優男。多賀屋の女性一同は、清蔵の親譲りのデカ摩羅しか期待していなかったのだが、予想以上の二枚目なので涎を垂らさんばかりである。肝心の清蔵は、はにかんでまともに顔をあげられない。松は挨拶を終え、多賀屋一家の一人一人を紹介し始めた。やっと清蔵が顔を上げ、各人の名前を覚えようとする。先ず、多賀屋主人・梅太郎。でかい図体に、あまり賢そうではない顔。そして、その妻・志乃。志乃が軽く会釈した。清蔵は志乃の容貌に目を見張った。清楚な顔立ちにこぼれるような色気。この人ともやれるのか!旦那公認で?清蔵の胸はどきんどきんした。次に長女・多代が紹介された。多代は清蔵の目を見つめて微笑んだ。清蔵はガビーン!となった。世の中にこんな可愛い娘がいたのか!美しく、そして愛らしい。清蔵は多代から目が離せなくなった。松は卓二やおまんの紹介を続けているが、清蔵はずっと多代を見続けていた。その凝視に気づいた志乃も松もおまんも、呆気にとられて多代と清蔵の顔を見比べた。清蔵が多代に一目惚れしたのは明らかだった。

両家の紹介が終わると、松は清蔵を自室に呼んだ。
「清どん」と松。「おめさん、多代が気に入ったようでねが?」
清蔵は返事に困って顔を赤くする。
「けんど、忘れねでけろ」と松。「おめさんが多賀屋に住み込むつうのは、家族とおんなす(同じ)こんだ。家族つうもんは誰彼区別すねでかだる(話す)もんだべ。おめさんが多代だけと話(はなす)ばして、他の者(もん)とは喋らねつうのは家族ではねえ。この理屈(りぐづ)分るが?」
「へえ」と清蔵。
「おめさんは多代のごど独り占め出来ねえし、多代もおめさんば独り占めは出来ね」
「へえ」
「家内じゅうで(みんなで)仲良くやるだ。ええが?」
「ほ、ほんてんおれはぺっちょ出来るのがっす?」清蔵が思い切って聞く。
「ああ、ほんてんだ。今さら何を云ってるだ?」松が呆れる。
「夢みてえで、信じらんねっす」と清蔵。
「夢ではねえ。このうづ(家)のおどご(男)とへな(女)は、いづでも誰とでも自由にやれるだ。番頭や女中は別だげんと」
「やっぱり夢みてえだ!んだば…」清蔵が松に襲いかかる。松を押さつけ、のしかかる。
「ま、待て!ぐ、ぐるじい!」松が悲鳴を挙げる。
清蔵は松の着物を割って陰部に手を伸ばそうとする。松が清蔵の頬にバーン!とビンタを食らわす。
「いっでえ(痛い)ーっ!」清蔵が頬を押さえて動きを止める。
「ほげなす(馬鹿もん)!」と松。「話ば終りまで聞くもんだ」
「あー、いっでえ(痛い)。大奥様、いづでも誰とでもやってええつうがら…」清蔵がこぼす。
「乱暴は駄目だ。それに今日のおめさんの相手は決めであるだ」松が身繕いを正しながら云う。
「お多代様だべか?」清蔵がパッと明るい表情になる。
「おめさんは奉公人でもねえし、多代より年上なだがら、“お多代様”はあんめえ。“ちゃん”でええ」
「“お多代ちゃん”でええがなっす?」
「そんでええ。けんど、こんにゃ(今夜)の相手は多代ではねえ」と松。
「なーんだ」清蔵ががっかりする。

「おめさん、多代に嫌われでえのが?」松が聞く。
「とんでもねえ。逆だっす。お多代ちゃんに好かれでえっす!」と清蔵。
「おめさん、ぺっちょしたごどねえだべ?」
「…へえ」清蔵が上目遣いで恥ずかしそうに云う。
「ぺっちょつうもんはどげなもんと思ってるだ?云ってみでけろ」と松。
「へな(女)ば裸にして、ぺっちょにおれの“だんべ”(摩羅)突っ込むっす」と清蔵。
「ほんで?」松が先を促す。
「ええ気持(きもぢ)になったら“ずろ”(精液)出すっす」
「誰がええ気持になるだ?」
「?」清蔵がきょとんとする。
「よぐ聞け、清どん」と松。「ぺっちょつうもんはおどご(男)とへな(女)が一緒にええ気持になるもんだ。おめさんだけええ気持になるもんではねえ」
「へえ」
「へな(女)もええ気持になっから何回でもやらすだ。んでねば、こばがくさくて(馬鹿馬鹿しくて)やってらんね」
「へえ」
「おめさんはへな(女)抱くの初めてださげ、“だんべ”突っ込んだらあっと云う間に“ずろ”出すに決まってるだ。へな(女)はなーんも気持良ぐねえ。へな(女)が喜ぶと思うが?」
「腹立てるべなっす」と清蔵。
「んだ。おめさんが多代に嫌われてえだら、こんにゃ(今夜)多代とやってもええ」
「わがったす。んだば、おれのこんにゃ(今夜)の相手は若奥様がっす?」
「んだ。よーぐ教(おせ)えて貰うだぞ」松が清蔵を送り出す。




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