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69. 決断

翌日、二日酔いの梅太郎に電話がかかって来た。農商務大臣の秘書からだった。
「これから大臣が伺いますんで、お出掛けにならず待ってて下さい」と秘書。
「えーっ?そげな!今日はなにむぎ(何にも)準備してねでがんす」梅太郎が泡を食う。
「どうぞ、御心配なく。何か御主人に相談があるだけだと云ってました」
「ほ、ほんで、大臣さあはいづ?」
「もう着かれる頃だと思いますよ」と秘書。
「あじゃーっ!大変!」梅太郎は突如電話を切り、洗面所に顔を洗いに走り去った。

ほどなくして農商務大臣が到着し、松と梅太郎と長い間話し込んだ。

農商務大臣が引き上げた後、卓二とおまんが松の部屋に呼ばれた。既に梅太郎と妻・志乃、越後屋の久蔵と妻・美代が、松を中央にして左右に居並んでいた。おまんは(いい話だろうか、悪い話だろうか?)と胸をどきどきさせていた。卓二とおまんは、両家の夫婦に挟まれるようにして、松の前に並んで座らされた。

「卓二、おまん」松が口を切った。「今日、大臣さあがまたござって(来られて)の。ゆんべのオナンコのどっちゃが一人養女にくれつっただ」
「えーっ?」卓二とおまんが同時に叫んだ。
「本来なれば多代にいいはなす(話)だども、多代はもう越後屋どんにやるつ約束になってる」と松。
久蔵と美代が感謝の表情で、松に向かって軽くお辞儀をした。
「残るのは、おまん、おめ(お前)さんだ」と松。
「大奥様!おれ、やんだ!」おまんが叫んだ。「おれ、多賀屋ば離れたくねっす!そげな話、すねでけらっしゃい!」
「待で、おまん!」松が制した。「まだ、おめ(お前)の意見なんぞ聞いでね。おめ(お前)、親を差し置いて出しゃばんでねえ」
「え?」おまんが戸惑う。親なんぞとっくに死んでいない。
「んだば、久どん」松が促す。

「養父と云っても名ばがりのおれが口挟むなんて大それでるけんど…」と越後屋久蔵。おまんは思い当たった。親というのは久蔵だったのだ。松は戸籍上の養父である久蔵を立てたのだ。「お松さんの好意ば無にしたぐねさげ、一言だげ云わせで貰うべ。大臣さあは、どっちゃのオナンコでもいい、引き取ったらちゃーんと東京の学校さ上げで学問させでやるつう約束ばしてくれだつこんだ」
松と梅太郎が(その通り)という顔で頷いた。
「多賀屋どんもおれも、おまんばめんこがって来たども、学問させるとごまでは考(かんげ)え至らねがった。大臣さあが『学問させる』つったら大学までやってくれるつこんだべ。おまんにとって、こんなええ話はねえど思う」と久蔵。
「おれも久どんとおんなす(同じ)意見だ」と松。
「だども大奥様、卓どんと別れるぐれなら、おれ身投げするっす」とおまん。
「ほげなす(馬鹿)!」松が一喝した。「おめ(お前)には切っても切れね男がいるごど、ちゃーんと云ってある」
「大臣さあは、卓二とおまん、どっちゃも面倒見るつってただ」梅太郎が口を挟んだ。「養子とか養女でねぐ、書生と行儀見習いでも構わねえそうだ」
「ほんてんが!んだら、おれ勉強して大奥様みでな立派な商人(あきんど)になりでっす」とおまん。
「んだ。勉強さすれば何にだってなれっだ」松が微笑む。

「大奥様、旦那さあ」ずっと黙って聞いていた卓二が口を開いた。「大臣さあのとごさやるのはおまんだけにしてけらっしゃい」
「な、何云うだ、あんたっ!」おまんが卓二の着物のたもとを引っ張って叫ぶ。
「どういうこんだ、卓どん?」松が訝る。
「大臣さあはおまんば気に入っただべ?大臣さあはおまんとぺっちょするだべ」と卓二。「おれは何の役にも立たね。おまんの付録で東京さ行って暮らすなんて、そげな情(なさげ)ねごど出来ねっす」
「あんた!」おまんが大粒の涙をこぼす。おまんにも卓二の気持がよく分ったからだ。「おれ、どごさも行がね。あんたと一緒に多賀屋で暮らすだ」
「卓どん?」松が笑みを含んだ顔で云った。「大臣さあがおまんばめんこがれば(可愛がれば)、大臣さあの奥様が寂しがると思わねが?」
「?」卓二がきょとんとする。
「大臣さあは前に奥さん亡ぐして、後妻貰っただ。ちょうど志乃ぐれの歳の筈だ」と松。
「え?」卓二が目を輝かす。「若奥様ぐれ、うづぐすい(美しい)奥様だべが?」
「あんた!」焼き餅を焼いたおまんが卓二の腕を抓る。
「痛(い)ででで!」と卓二。
「卓どん?」と松。「大臣ともなればへな(女)は選り取り見取りだなだ。ろぐでない(ろくでもない)へな貰うわげねえべ」
「んだなっす!」卓二が納得した。自分も大臣の家の役に立つなら、おまんの付録ではないわけだ。

「んだば、二人で大臣さあとごさ行ぐつって電話するさげな」梅太郎が立つ。
おまんが志乃、久蔵、美代などと涙ながらに別れの辛さを告げていると、梅太郎がどたどたと駆け込んで来た。
「あした、迎えば寄越すから準備しとげつう話だ」と梅太郎。
「なにむぎ(まったく)えれえ急な話だな、そら!」松が呆れる。
「送別会も出来ねじゃねがっす」と美代。
「卓二、おまん」と松。「おめ(お前)ら、準備つってもどうせ行李一つぐれえしか荷物ねえべ?」
「へえ。ほんてん行李一つだっす」とおまん。卓二も頷く。
「んだば、今晩お別れの宴会すべ」と松。
「毎日宴会ばっかだな!」志乃が呆れる。
「宴会より、おれおまんと最後のぺっちょしてえ」と久蔵。
「おれもだ」と梅太郎。
「清蔵もやりたがるべな」と美代。「明男さんと荘太君にもやらせねば怨まれるべ?」
「善夫ともやってけろ」と志乃。
「おまん、今夜は寝られねな。あははは!」美代が云い、みんながどっと笑った。

その夜、宴が果てると、卓二とおまんの部屋に六人の男達が乱入して卓二を追い出し、全員裸になっておまんの身体をまさぐり撫で擦って別れを惜しんだ。おまんは、千手観音を相手にしているような、この世のものとは思えぬ快感と興奮に満たされた。六人の男は次々におまんと性交した。みんなで射精するとおまんの膣が精液でだばんだばんになってしまうので、射精したい時だけ避妊具(コンドーム)を使うルールだった。おまんは六人の男に六回イかされ、白目を剥いて悶絶した。




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