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70. 旅立ち

翌日、迎えの馬車が多賀屋の前に着いた。迎えに出た梅太郎が危うく腰を抜かすところだった。馬車から降り立ったのは、長身で逞しい壮年の白人だったからだ。おまけに、その連れ合いらしい金髪の白人女まで現われた。
「け、毛唐がっ!」外国の言葉など全く話せない梅太郎は狼狽し、誰かに助けを求めようとしてきょろきょろした。
「コニチワ、タガヤサーン」と白人の男が流暢な日本語で云った。
「ハジメマシテ」白人の女も日本語で挨拶し、軽く会釈した。
「ど、ど、ど、どうもっす」梅太郎が吃ってしまう。まだ足が震えている。
清蔵と善夫が卓二とおまんの行李を馬車の荷台に積んでいると、松に別れの挨拶を済ませた卓二とおまんが家から出て来た。
「け、毛唐でねがっ!」卓二がたまげた。おまんも思わず卓二の背に隠れる。
白人の男は、男の子一人に女の子一人と聞いて来たのに、どっちも男の子のような子供が出て来たので戸惑った。しかし、紺の絣の着物を着た方が男、紫紺に赤が混じった着物を着た方が女であろうと見当をつけた。
「キミ、カツドン。キミ、オマンコチャン。ダヨネ?」と白人。
「お、おれ、カツ丼でねっす、卓二つうだ!」卓二が抗議した。
「みんな、卓どんて呼んでるでがんす」とおまん。
「ほんで、このへなこ(女の子)はおまんこじゃねえっす。おまんだっす」卓二もおまんのために加勢する。
「OK、OK、サ、イキマショ!」白人の男は卓二とおまんを馬車に招じ入れた。

船着き場で一行四人は最上川を昇る乗り合い舟に乗った。この当時、鉄道の酒田線(後の陸羽西線)はまだ完成しておらず、舟で最上川上流の新庄まで行き、そこから奥羽線(後の奥羽本線)に乗るしかなかった。
最上川沿いの住民が引っ張ってくれる舟の上で、白人二人は自己紹介した。男はジャック(36歳)、女は妻のベティ(34歳)と名乗った。ジャックは、ジャックの父が農商務大臣のアメリカの大学に留学中の友人だったこと、その因縁で日本の英語学校の教師として夫婦で来日したこと、しかし、日本政府の方針が変更され日本各地の英語学校が廃校となり、高校(旧制)に変貌したこと、二人は職を失ったが大臣の家に同居し、華族や資産家の子弟の家庭教師となっている…ことなどを話した。
おまんは、ジャックとベティが教師と聞いて卓二と顔を見合わせた。これまで出会った教師は男先生、女先生、光代の夫・明男まで、みんな助平と相場が決まっていたからだ。

明治政府が語学教育に熱心だったのは事実で、全国に七つの英語学校を設立し、英米人教師が全て英語で英・数・歴史・地理・体育などを教えるシステムであった。そこを卒業した生徒たちは東京帝大、同志社大、札幌農学校などの、英米人による英語での授業を継続して受けたから、書くことも話すことも英米に長期留学した子女と変わらぬ実力を身につけた。現在の、「英語は読み書き出来るが話せない」という教育とは完全に異なっていた。

ジャックとベティは日本のこと、アメリカのことについて色々喋ったが、おまんも卓二もほとんど聞いていなかった。最上川沿いの住民に引っ張られて遡上している舟は、次第に見慣れた風景を進み始め、志乃の母親である巫女さんの住む町に近づいていたからだ。
「あっ、ばっちゃまだ。ばっちゃーん!ばっちゃーん!」おまんが船着き場に佇む巫女さんの姿を認めて、立ち上がって手を振った。卓二も立っておまんの身体を支えながら、一緒になって手を振った。巫女さんも手を振って応えた。志乃が母親に電話し、見送ってやってくれと頼んだのだ。
舟を下りたおまんと卓二は巫女さんと三人、抱き合って再会を喜んだ。ジャックとベティが、おまんの本当の祖母かと思ったほど、三人は涙でぐしょ濡れだった。
おまんが巫女さんの家に一泊したいと云い出した。巫女さんがおまんの祖母ではなく、多賀屋の嫁の母に過ぎないことを知り、帰京を急ぎたいジャックはうんと云わなかった。しかし、ここで一泊出来ないのなら東京へは行かないと、おまんが駄々をこねた。おまんにとってみれば、現在の恵まれた境遇に導いてくれた巫女さんは恩人であり、ちゃんと別れも云わずに去ることなど出来なかったのである。

巫女さんはジャックとベティともどもおまんと卓二を連れて、神社に戻った。巫女さんの長男で、今は神官となっている正一(28歳)が出迎え、ジャックとベティに境内を見せて廻った。その間に卓二が風呂を沸かし、おまんが手伝って巫女さんと夕食を料理した。正一は酒の肴に、日露戦争に従軍し満州馬賊に加わることになった経緯をジャックとベティに話した。目の前に座っている神官の前身が盗賊であることを知ったジャックとベティは驚き、呆れた。

巫女さんは、卓二とおまんに手伝わせて客間に客人四人の床をのべた。
「ばっちゃん?」おまんが怪訝な顔をした。卓二とおまんは巫女さんと一緒の部屋で寝るつもりだったからだ。
「今日はええ。大臣さあの知り合いが一緒では無理だべ」と巫女さん。巫女さんは若い卓二と性交したかったし、満州で12歳前後の少女を犯しまくって来た正一もおまんとやりたいのは山々だった。しかし、万一ジャックとベティに只ならぬ関係を知られたら、おまんと卓二の将来に関わる…そう思って、巫女さんは諦めたのだ。
おまんと卓二は諦めなかった。同室のジャックとベティが完全に寝入ったことを確認した二人は、手を取り合って巫女さんの部屋に向かって忍び出た。

巫女さんと正一は、夫婦のように一つ布団で抱き合っていた。正一は嫁も迎えずに、毎夜のようにおまんこで母親孝行しているのだった。巫女さんの寝室に忍び入ったおまんは、月明かりで男女を見極めて正一の側に、卓二は巫女さんの方の布団に滑り込んだ。
「お、おめ(お前)は卓どん!」巫女さんが気づいて、驚きと喜びを綯い交ぜにして叫んだ。「来ちゃなんねのに…」
「おまんちゃん!」正一がおまんを抱きすくめ、おまんの身体を撫で擦った。母親とおまんこしながら、いつも正一は満州の少女たちのきついおまんこを懐かしんでいた。弟・善夫から多賀屋の少女たちの話を聞くにつけ、羨ましくて、家を継いだ自分を呪ったものだった。ついにおまんを抱くことが出来るのだ。正一の摩羅はぎゅいーん!と勃起した。
巫女さんは布団を撥ね除けて卓二の摩羅を舐めた。義理堅く忍んで来てくれた感謝のしるしであった。
正一も感謝していた。そう親しくもないのに、母親と姉・志乃への義理立てておまんこさせてくれようという少女・おまんの心根がいじらしかった。正一もおまんの割れ目を開き、陰核を舐め出した。

ジャックが尿意を催して目覚めた。厠(かわや)へ行って小便をし、ぶるぶるっと身体を震わせた。部屋へ戻ろうとした時、どこからか呻き声が聞こえた。しかも一人の声ではない。二人だ。二人一緒に急病になるというのは妙だ。祈祷でもしているのだろうか。真夜中に?ジャックが客間に戻ってよく見ると、卓二とおまんの寝床は空であった。ジャックは凍り付いたように立ったまま、少年少女とさっきの呻き声の関連について考えた。ジャックは妻の身体を揺すった。
「What? What time is it?」寝入りばなを起こされたベティが非難するように云った。
「Shhhh...」ジャックはベティを黙らせ、彼女の手を取って立たせた。
「What the hell are you doing?」訳が分らず、ネグリジェ姿のベティが詰問する。
「C'mon! Be silent.」ジャックが妻の手を引いて足音を忍ばせて廊下に出、呻き声が聞こえた部屋の方に向かう。
「What is that?」呻き声に気づいたベティが小声で囁く。
二人は呻き声が漏れ出て来る部屋の前に来た。それは病気ではなく、明らかに女が性交でよがっている声だった。しかも二人である。この夜、女と云えばベティ以外には巫女さんとおまんしかいない。ジャックは襖に手をかけ、そーっと滑らせた。
「No! Darlin', no!」ベティが押し殺した声で夫の無謀な行動を止めようとする。
しかしジャックは、かくも興奮している最中の男女が襖の動きに気づく筈はないと確信していた。彼は襖を持ち上げて軋る音を出さぬようにし、少しずつ少しずつ隙間を広げて行った。

ジャックが隙間に片目を当て、室内を覗き込んだ。月明かりに二人の男の背が浮かんでいる。体格の違いで、一人が卓二、一人が元馬賊の正一に違いなかった。仰向けに寝ている女たちの顔は見えない。と、その時、卓二とおまんこしている女が何か云い、体位を変え始めた。卓二が仰向けに寝て、女が卓二の勃起した摩羅をおまんこに収め、上下運動を始めた。その女は50過ぎの巫女さんであった。老女と少年とで性交しているのだ。と、正一も母親の真似をするらしく体位を変えた。正一が寝そべり、代わって起き上がったのは12歳の少女おまんであった。おまんも正一の腰の上に跨がり、正一の愛液に濡れて光る摩羅をおまんこに埋め込み、屈伸運動を始めた。
ジャックが襖から離れ、替わりにベティに覗かせた。
「Oh my gosh!」ベティが呟いた。
巫女さんが快感に呻きながら激しく上下運動をしている。下になっている男が、巫女さんのやや垂れ始めた乳房を両手で弄くっている。おまんの下になっている男は、おまんの未成熟な身体を愛でるように、片手でおまんの平らな胸を、もう一方の手でおまんの尻を撫で擦っている。
「あはっあはっあああ!」おまんが快感の洪水に溺れる。
「あう、あう、おう、おおお」巫女さんもよがる。
いつしかベティの股間が濡れ始めた。手を伸ばしてクリトリスを弄くる。ジャックがベティの肩をとんとんし、「替われ」の合図をする。覗きをやめるつもりのないベティは、そのまましゃがんで下の方の隙間から覗き続けた。

ジャックが妻の背にもたれるようにして、上の方の隙間から覗く。ジャックは日本人たちの性交、特に少年少女の性交を目撃して興奮していた。ジャックは勃起したペニスをパジャマの上からしごいた。上ではジャックがペニスを擦り、下ではベティがクリトリスを撫で擦る。こんなことは夫婦になって初めてのことであった。

「あっはーんっ!わうーん!」おまんの興奮が高まる。
「わぐう、おうぐむーんっ!」巫女さんも盛大によがる。
卓二も正一も女たちの昇天を助けるべく、下から勃起した摩羅を突き上げる。
「うぐわーっ!」おまんが激しく腰を動かしながら叫ぶ。
「ぎひーっ!」巫女さんも腰を廻し、上下させ、最大限性器の快感を貪る。
「わあーんっ!」おまんが身体を硬直させてイった。
「むううーっ!」正一が、どばーんどっばばーん!と精液を噴き上げた。
「ぎゃひーっ!」巫女さんが狂ったように髪を掻きむしりながらイった。
「うむむーっ!」卓二がぴゅぴゅどっぴゅーんぴゅーん!と精液を迸らせた。
「どばーんっ!」突如襖が室内に倒れて、立ってペニスをしごいていたジャックと、しゃがんで陰部を弄くっていたベティの姿が曝け出された。興奮してあまりにも襖に寄りかかり過ぎたのだ。
室内の四人はぶったまげて裸の身体を凍り付かせた。
ジャックとベティは恥ずかしさのあまり、倒れた襖を直すでもなくどたどたと逃げ去った。

翌朝、日米の人々の態度は対照的だった。巫女さんは正一、卓二、おまんと並んでジャックとベティの前で深々と頭を垂れた。
「どうぞゆんべ(昨夜)のことは大臣さあに云わねでけらっしゃい。お願(ねげ)えするす」巫女が畳に頭を擦り付け、他の三人も頭を下げた。
「エ?ユーベ、ナニカアリマシタカ?」とジャック。「キミ、ナニカ、キヅイタカイ?」
「イーエ。ナンニモ」とベティ。
「ト、ユーコトデス。ワタシ、オナカスキマシタ。チョーショク、タベタイデス」とジャック。
「どうもーっし(ありがとうございます)」巫女さんがアメリカ人の配慮に感謝した。「んだば、すぐ、ままこしゃえ(御飯の支度)するす。待ってでけらっしゃい」巫女さんはおまんを急き立てるようにして台所に去った。
正一は、勇ましい馬賊の話をした時の元気をなくし、きまり悪そうに座っていた。
「What are you thinking?」ベティが、一人にこにこしているジャックに問いかけた。
「I'm thinking about tonight.」とジャック。
「What will happen tonight?」とベティ。
「The same thing what you are thinking.」
「You bastard!」ベティが夫をぶつ真似をした。




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