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07. 春画

「兄ちゃん、一緒にお風呂行かない?」と由美ちゃん。
「おれ、区切りのいいとこまでやってから行く」宏君は机の上のラップトップ・コンピュータでプログラミングをしていた。
「じゃ、お先に」由美ちゃんは出て行く。

二人のアパートは商店街から二ブロックほど離れていて、銭湯はその商店街の外れにあった。全行程、暗い町並みはないので、夜遅くでなければ由美ちゃん一人でも安心して歩ける。プラスチックの桶(これもピンク)の中で石鹸箱がカタカタ鳴る。ふっと、由美ちゃんは何かが足りないような気がした。
「いけない!」湯銭を忘れたのだ。いつもは小さな小銭入れにお金を入れ、それも桶に放り込むのだが、今日に限って忘れたのだ。(遠いとこじゃなくてよかった!)由美ちゃんはアパートに戻った。

ドアを開けると、宏君がオナニーの真っ最中だった。またビデオを見ながら、勃起したペニスを擦っていた。全部丸見えだっだ。
「またあっ!もうーっ、いやっ!」由美ちゃんが目を覆う。
「お、お前!」宏君が慌てる。「ど、ど、ど」
「お金忘れたの。あ、ここにあったわ」由美ちゃんは下駄箱の上に小銭入れがあるのを見つけた。「今度はほんとに行く。バイ」

由美ちゃんはまた兄の勃起したペニスを見てしまった。もうショックはない。しかし、その太さ、長さ、色、猛々しい感じに圧倒される思いがした。男は荒れ馬のようなペニスを抱えていて、始終なだめすかしていないといけないようだ。由美ちゃんは、一寸した隙を見てはこそこそとオナニーに走る兄が哀れだった。そこには兄の威厳も男の誇りも見られない。由美ちゃんは妹として口惜しかった。あんな兄であってほしくなかった。

由美ちゃんはお風呂に浸かりながら考えた。兄ちゃんは日々精液が製造されタンクが溢れそうになると云った。だから、毎日出さなきゃいけないと。じゃあ、精液というものはおしっこやうんちと同じじゃないの?由美ちゃんはもちろん精液の本来の役目を知っている。しかし、結婚して正式に生殖行為としてセックスを行なう以前は、精液も無為に製造され、無為に排泄される。独身女性の排卵・月経という生理現象と全く同じだ。女性の月経は人によっては痛みを伴う。男のオナニーは快感を伴う。だから、男は嬉々として精液を排泄するのだろう。オナニーに満足せず、売春婦を相手にして排泄する男もいる。たかがうんちと同じ排泄行為にお金を出すというのは馬鹿げている。売春婦を雇えない男は、暗闇で女性を犯したりする。単なる排泄行為なのに刑務所行きの危険を冒すわけだ。こうなると、馬鹿げているどころでなく、気違い沙汰である。

兄ちゃんもキャバレーの女にお金を払ってやらして貰っているんだろうか?あんな安っぽい女たちにお金を払うなんて考えられなかった。兄ちゃんがモテているだけだと考えたい。それにしても、ああいう女たちほど兄ちゃんに似つかわしくないものはない。兄ちゃんはバイト先を換えるべきだと思った。兄ちゃんは堕落し、人間が腐ってしまうと思った。

由美ちゃんがアパートに戻ると、入れ違いに宏君が風呂に行った。二人とも、先ほどの出来事には知らんぷりしている。

由美ちゃんは兄が見ていたビデオを探した。TVの近くにはない。隠してあるのだ。由美ちゃんは兄の机の引き出しを調べることにした。一番上は文房具に決まっているから、二番目か三番目だ。二番目は浅いので、隠せるスペースはそうない。三番目があやしい。由美ちゃんは三番目の引き出しを開けた。いくつかの仕切りがある。大きい仕切りのプリント類を持ち上げると、何とエロ本が出て来た。(こんなものまで!)由美ちゃんは呆れた。奥の方の小さい仕切りを探る。あった。テープだ!

引っ張り出したレンタル・ビデオは『濡れ濡れ未亡人下宿・近親ハメ狂い』というタイトルだった。由美ちゃんには何のことかさっぱり意味が分からない。テープをデッキに入れる。台詞ばかりのイントロは飛ばす。いよいよベッドシーンになった。画面がボケる。由美ちゃんはTVが汚れているのかと、ティシューでごしごし拭いた。やっぱりボケている。場面が変わると、今度は別なとこがボケた。(そうか!日本の法律ではモロに見せられないんだ)やっと分った。まあ、ボケていても俳優たちが何をしているかは分る。(こういうものか)由美ちゃんは思った。

由美ちゃんは一向に興奮しなかった。冷めた目で男女の絡み合いを見た。美しくはなかった。こんなものを見て喜ぶ兄の気が知れなかった。

場面が変わって、レスビアンになった。女同士が抱き合い、キスし合う。これは綺麗だった。やがて、女性の一人がもう一人の女性の股の間に手を伸ばし、割れ目(とおぼしき部分)の上の方を細かく指で擦る。「ああああ、ああううう、あわーっん!」という呻き声。由美ちゃんも浴衣の下に手を入れ、試しにパンティの上から触ってみた。何か感じる。画面の女の手の動きに合わせて早く擦ってみた。「あうっ!」びくんとした。感電したようなショックがあった。由美ちゃんは慌てて手を引っ込めた。

早送りする。今度は女が男の腰の前で何かしている。女が男のペニスを擦っている。(兄ちゃんがやってたこと、女の人がやってる)由美ちゃんはびっくりした。(これはオナニーじゃなくて、何なのだろう?)しばらくして、女はペニスを口に入れた。(まあっ!こんなことまでするの?)由美ちゃんには想像も出来ないことだった。画面では、いまや男が女の顔を押さえ、腰を激しく突いている。「おおおーっ!」男が叫ぶ。女も激しく頭を動かす。女の顔がアップになる。もうボケてはいない。女がカメラに向かってにっこり笑って口を開ける。舌の上に何か白い粘液が溜まっている。何だろう?(あ、あれが精液か!飲んじゃっていいのーっ?妊娠しないのかしら?)由美ちゃんはそう思っていた。




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