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11. 裸身

以後、宏君は毎回「フェラチオ、やってくんない?」と由美ちゃんに頼むようになった。答えは常に「ノー」。宏君は計画的にフェラチオ場面が映るようにビデオの頭出しをした。由美ちゃんの頭にフェラチオへの抵抗がなくなるように洗脳しようとしていたのだ。

宏君は一日に二回も由美ちゃんの奉仕活動を求めることもあった。由美ちゃんは、兄が「精液はひっきりなしに生産される」と云ったのが嘘ではないと思った。三食食べてもうんちは一日一回である。精液を一日二回排泄しなければならないというのは大変なことだ。

兄のオナニーの手伝いに慣れて来て、由美ちゃんはもうよそ見しても別なことを考えていても、ちゃんと“仕事”がこなせるようになった。

ある日、由美ちゃんは教科書を読みながら兄のペニスを擦っていた。
「なんだい。随分おざなりだなあ」と宏君。
「だって、明日試験なんだもん」と由美ちゃん。
「じゃ、いいや」いつの間にかペニスは張りを失っていた。
「どうして?」と由美ちゃん。
「真面目にやってくれないとお珍々も拗ねるんだ」
「そんなあ!」
「だってさ、まるでロボットにやって貰ってるみたいで、興奮しないんだよ」
「ごめん。じゃ、真面目にやるから」と由美ちゃん。
「もう、いいよ。試験終わったら頼む、な?」
「ごめんなさい」
「いいんだ」と宏君。

夕方。
「兄ちゃん、お風呂一緒に行こう!」と由美ちゃん。浴衣に着替えている。
「先行け。すぐ追っかける。出たら、外で待ってろ」と宏君。
「うん」由美ちゃんが先に出掛ける。

宏君も浴衣を着て、数分遅れてアパートを出た。それにはわけがあった。浴衣姿の妹が銭湯の暖簾をくぐったのを見届けた宏君は、頭の中で妹が下駄箱に下駄を入れ、番台でお金を払い、ロッカーを選ぶところまでをリアルタイムで想像した。そのタイミングで自分も暖簾をくぐる。番台でぐずぐずお金を払うと、女湯の脱衣場で、由美ちゃんがちょうど浴衣を床に落としたところだった。パンティ一枚の後ろ姿。宏君も初めて見る妹の姿だった。ピンクのパンティに包まれたお尻が可愛い。そのパンティを脱ぐところまで見たかった。
「お客さん、入って!」番台の男が催促する。もう充分覗きのサービスをしたから、これ以上は許さないという強い意志が篭っている。おれの妹なんだからいいじゃないかと云いたくなったが、妹の裸を見たがるのも変かと思い直し、渋々中へ入る。

湯の中で、宏君は妹の半分裸の姿を反芻していた。ショートヘアで小柄、スレンダーな体型は、プロポーションはいいもののまだまだ色っぽいとは云えない。しかし、全体になだらかな曲線を描く輪郭は、まさに女だった。普段、服を着ている妹からは伺い知れぬ中身だった。宏君は思わず勃起してしまい、湯船から出るに出られなくなった。仕方なく、壁にモザイク・タイルで描かれた富士山の絵を鑑賞し、妹の裸のイメージを頭から追い出した。

外へ出ると由美ちゃんが待っていた。
「おでん屋に行かないか?」と宏君。
「え?あ、お給料出たのか」キャバレーのバイトの最後のお給料だ。「行こ、行こ!」

「らっしぇーい!」まだ時間が早いので、おでん屋の屋台は空っぽだった。
「お酒、二本!」と宏君。
「へーい!」丸顔の中年の親父が応える。
「そんなに呑むの?」と由美ちゃん。
「二本ぐらい、大したことない」二人はそれぞれ好きな具を注文する。
「あふあふ」と由美ちゃん。熱いのだ。「おいしいけど熱い。熱いけどおいしい」
「バーカ」と宏君。

「へい、お酒、お待ち!」と親父。
「ありがと。お前も一杯飲め」と宏君。
「一寸だけよ」と由美ちゃん。
「おい、さっき、お前の脱ぐとこ見たぞ」
「えっ?」由美ちゃんは呑み込めない。
「番台越しに」と宏君。
「やーだ!エッチ!このーっ!」由美ちゃんが肘で兄を小突く。
「いいねえ、新婚さんは熱々で。ごちそうさまです」と親父。
新婚と云われて由美ちゃんが顔を赤くする。
「ごちそうになってるのはこっちなんだけど」と由美ちゃん。
「ははは、お互い様か」と親父。
「じゃ、払わなくていいかな?」と宏君。
「じょ、冗談でしょ。頂きまっせ、ちゃんと」
「あははは」と由美ちゃん。
「あははは」と宏君。

兄妹は肩をならべてほろ酔いでアパートに帰る。二人とも、お酒ばかりでなく幸福感にも酔っていた。宏君は妹との共同生活の意外な展開が嬉しかった。由美ちゃんも自分が兄の品行を正すことによって、彼の人生に寄与していることが嬉しかった。二人とも、おでん屋の親父の目に“新婚さん”と映ったことにも、恥ずかしいような嬉しいような気分を味わっていた。




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